しゃぼん玉の欠片を眺めて 公演情報 TOKYOハンバーグ「しゃぼん玉の欠片を眺めて」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    ハンバーグの同作初演を観ているが、良い作品であった。今回の再演では中心となる老齢の人が初演の男性(三田村周三)から女性(矢野陽子)となり、配役も一新した事もあるだろうが、より示唆的で「現代」を重ねて見る作品になった。

    ネタバレBOX

    芝居のテーマは「高齢化問題」と括れてしまえそうなのだが、典型的なそれに括られない要素が、この芝居の魅力だ。矢野陽子演じる正代(しょうだい)さんは一人暮らし。この一軒家に最近、十代の孫たち(長女の息子と長男の娘)がやって来る。いとこ同士の二人が祖母宅でバッティングした時の会話で、二人が「親に言われて「偵察」に来ている」事がわかる。(とは言え二人は忠実な「探偵」を離れて素朴な興味を持ち始めているようでもある。)
    二人が祖母宅で出くわすのが、ハウスクリーニングの業者。定期的に入る事となった掃除業者は数名で物々しくやっているが、「確かこの間も来ていた」と気づいた女子がが疑問をぶつける。業者のその男性は「頼まれてるから来ているんだ」と答える。
    正代さんの親族=長女とその息子、長男夫婦とその娘、次女=による「母」をめぐっての親族会議では「食い物にされる高齢者を放っておけない」とその事が引き合いに出されるのだが・・。一方ハウスクリーニング業者は、40代の社長が志一つで立ち上げ、事務担当の妹、数名の作業員(男3名+女1名ばかり?)、そこへ随分くたびれた「新人」が入って来る。このグループの人間模様が、やはり「正代さん」問題を巡って観客には見えて来る。正代さんは本来何か月に1回入るような契約が、まず月一になり、週一となり、その他何らかの用事を頼んで「明日もお願い」と正代さんは依頼をする。業者としてどうなのか・・新人歓迎会をやるはずの給料日に、従業員が社長に漏らした一言から紛糾する。社長は一言「皆の給料を集めるのは俺だ」と答える。
    その後も、物々しい掃除と、彼らを生き生きと迎える正代さんの姿という対照的な(ある意味笑える)光景は続いていく。正代さんは掃除ばかりか、「ちょっと行って来てくれる?」と買い出しをお願いする事もしょっちゅう。女性作業員には台所の片付けのついでに、と料理の下ごしらえまで依頼する。散歩に連れ出され、戸惑いながらも同行する従業員は、正代さんの良き話し相手である。正代さんの笑顔を見れば、従業員もどことなく楽しそうである。複雑な心境を抱えて関係は続くが、作業員個々の中で「正代さん」という存在が刻まれて行く。
    正代さんの自己決定、自己実現の形が観客の目に焼き付けられる。人の物語とは本来そういう物語であるべきではないか(弱者であり問題を起こしかねない存在としてでなく)、というメッセージが前半で雄弁に語られる。その後の展開はある意味「現実社会」を反映しているが、この芝居ではその事との「格闘」はしない。だが問いを静かに投げ掛ける。

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    2023/03/20 05:25

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