KIND 公演情報 劇団伍季風 ~monsoon~「KIND」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    ずさんなストーリー展開に唖然
    病院が舞台。シチュエーション・コメディー風のわずか一昼夜の時間経過の中に癌の余命宣告という重いテーマを盛り込んだ展開に無理がある。単純に笑って観てもいられず、この矛盾がストーリーの上で露呈することが大いに気になった。
    作・演出家の尚樹翔は「なおきしょう(直木賞)」あるいは「しょうじゅしょう(賞受賞)」と読むのだろうか、なかなか縁起の良い名前ですね(笑)。

    ネタバレBOX

    入院患者・小柳(宇田川大介)がベッドのうえで寝言で「開演に先立つ諸注意」を話す幕開きにまず笑った。
    オープニングに次々と役者が出てきて小道具や衣装に書いてある役名を客に見せて自己紹介していく演出も面白い。
    ただ、この劇団が好むやたらハイテンションのダンス場面は観ていて気恥ずかしくなった。
    会社で貧血を起こして倒れた鑑課長(加藤大騎)は、同級生富田(調布大)が院長を勤める病院に運ばれる。そこには課長の長女(斉藤千夏)が看護師として働いている。
    仕事の忙しさにかまけて長年家庭を顧みなかったためか、家族の反応は冷たく、妻(野本紗紀惠)は離婚も考えている。課長が癌であることが判明し、動揺する家族。
    改めて家族の絆の大切さに気づき、家族の心がひとつになる、という想定内の決着だが、気になる点がたくさんある。
    富田は課長が寝ている間にいろいろな検査を実施したら、胃ガンの疑いが出てきて、自信がないから知り合いの大病院の医師に判断を仰いだという。ひと晩寝ている間にすべての検査がすむならどんなにラクなことか(笑)。意識不明で胃カメラを飲んだのか?あちこちに転移って、翌日に結果がすぐわかるのか。せめて肺ガンにしておけば、病床用レントゲンもあるのでまだごまかしがきいた。しかも、指導を仰いだ医師だってカルテをもとに精密検査もしないで、電話で余命1年の診断を下すなんて。末期なのに、自覚症状もなかったのか。
    鑑の同室の小柳が、手足を骨折して身動きがとれないのに、ジャージーの上下の部屋着を着ている。こういう場合、病院では看護師が排泄や清拭の介助の必要があるため、着脱容易な前開きの寝巻きを着せるのが普通。
    師長(狩野裕香)が車椅子や松葉杖もなく、小柳を歩かせて散歩に連れ出すが、このような重症の骨折患者の場合、理学療法士が付き添って室内リハビリを行う以外考えられない。面会時間前に病室に入ったと見舞い客を看護師の長女が大声で怒鳴りつける場面も静寂を保つ病院ではありえない。
    課長が倒れた直後、手回しよく優秀な女子社員(下嶋亜由美)が出向してくるが、着任してすぐ、3人分の仕事をテキパキと片付け、社員の出る幕がないという。プログラムに派遣社員とあるが、本社からの出向社員のことでは?
    一緒に観劇した連れが「どんなに簡単なプロジェクトなんだ。企業はそんな甘いものではない。劇中にある引継ぎの命令系統もおかしいし、いくら喜劇でも社会常識を超えてこんなリアリティーのない芝居は観るに耐えない」と、終演後、ひどく憤慨していた。
    劇団代表で看板俳優の栗原智紀の名がチラシやプログラムに出ていないので、おかしいなーと思ったら、課長の贔屓の菓子屋(水谷真利子)の婚約者の職人役で出てきた。自作のプリンをまずいとけなされて病室に乗り込んできた菓子職人は、病室にいる俳優たちをいじりまくり、一発芸などを強要して笑いの場面をつくる。役者いじりで笑わせるのは結構だが、しつこすぎてこの場面そのものが浮いており、客よりも栗原が楽しんでいるのがいただけない(笑)。そのあとの娘による癌告知の場面が深刻で重要な場面なのだが、長男(小澤史弥)の反撃もTVドラマの常套句で、家族の描写が表面的できめ細かさが足りないので、唖然としてしまう。
    役者いじりはスパイス程度でないと、逆効果。本末転倒だ。
    最後に1千万円の宝籤が年末ジャンボとグリーンジャンボを取り違えていたというオチがつキ、ドタバタ風に終わるが、主人公が癌では笑えない。どうせご都合主義なら「誤診」とか「勘違い」の手法でハッピーエンドに収めてほしかった。
    課長役の加藤が「課長が・・・」と言い間違えたり、看護師の大島(小島亜梨紗)が富田院長に向かって「お父さん!」と叫んだり、どうなってるんだ(笑)。富田の娘も看護師なのか?鑑の娘は看護師だけど・・・?
    俳優では、宇田川、水谷、調布、狩野が面白かった。妻役の野本はかなりの美女だが、初舞台ということを演出家が配慮したのか、出番が少なく、動きも最小限だったのが残念。本来なら、ドラマ上はもう少し夫婦の会話がほしかったところ。非常に声が小さいと思ったが、ボイストレーニングを積めば解決できることなので、今後に期待。しっとりした大人の役を観てみたい。

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    2010/05/04 14:06

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