掃除機 公演情報 KAAT神奈川芸術劇場「掃除機」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    俳優がいきなりステージに現れて、ひたすらとりとめのない日常語りを長尺で
    展開する「チェルフィッチュ」スタイルを序盤こそ持て余している感あったけど
    まさかの「父親」3人登場以降は舞台の主導権を演出家が取り返してそのまま
    ゴール決めた感あり。

    基になった作品のホンを読んでいないので、セリフがどのくらいまんまなのか
    分かりかねる部分があるけど、本谷有希子の暴力的で荒々しい側面とシンクロ
    することが後半多くてスリリングだった。

    ネタバレBOX

    舞台の作りからしていいなって。ベッドとテレビが大きく湾曲化した左右に取り付けられ、
    正面と後方は大きく開いて役者が出入りできるという。

    引きこもっている人にとって家は一種のすり鉢状の「アリ地獄」みたいなものである一方、
    別に家族などに捉われてない人は正面からさっさと外界に出て行っちゃうというメタファーに
    なってそうだなと感じました。

    この作品のMVPは音楽監督だけでなく、「熱帯雨林」の仕事4日でバックレた労働者役で
    キャスティングされた環ROYかと。ひねくれてて楽しいことならオールオッケー!みたいな
    軽いノリを崩さない半面、何度か核心を突いた発言を飛ばしてくる「道化」にして「キー
    パーソン」の役割を立派に果たしていたかと。

    「熱帯雨林監督」にみんな爆笑して、「世界中がクソだらけだったらぁ、どこにも飛び込まないで
    その場にじっとしとくのが正解なんすよ!」的な、世界の理を動物的本能で見抜いてるのすごすぎる。
    この人を連れてきただけで半分成功してるようなもん。

    80代の父、50代で数十年引きこもってる娘、環ROYの仕事仲間で家出たがってる息子のリチギ家に
    物語を回す役目の「掃除機」と主要4キャラで「引きこもりを抱えた家の時間が止まったような、
    外界から隔絶しちゃってるような状況」を意図的に笑いをきもち多めかつ感情むき出しな調子で
    演出してるのが新鮮。

    好きな場面、娘がアリ地獄みたいな舞台端の部分に必死にしがみつきながら、「私の人生はずっと
    平坦で他の人に比べて平坦だけど」「それでいいんだって思いたい」みたいなことを絞り出すように
    独白するあたりかな。娘が引きこもったの、自分の亡くなった妻のせいにする高齢親父に比べて
    ちゃんと生きてるよな……。こういう部分あるから、岡田脚本&本谷演出でも不思議と重くならず
    どこか前向きに、そして時にはクスッときちゃう感じの作品になってる気がする。

    岡田利規の演劇、ダンスの要素とか社会の空気を入れ込んだ難解なもの、というパブリックイメージが
    広く共有されていて、「批評」的な側面で語られることが多い気がするけど、

    今回の作品のあいさつで「自分が書いた戯曲は演出するのは基本的に自分だけ、つまり他の演出家には
    扱ってもらえない、それを常々さみしく思っていました」「本谷有希子さんに演出してもらえる機会を
    いただき、まずはそのことがとてもありがたいのです」と書いているあたり、そういう文脈から
    逃れたかったのかな?という気もする。

    本谷自身もインタビューで、自分とは真逆だと言っていた気がするし、全然タイプ違う作家がコラボ
    するの面白いよね。

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    2023/03/18 21:19

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