実演鑑賞
満足度★★★★
午前の部「花の御所始末」を拝見。一幕ではまず足利義嗣(坂東亀蔵)の母の愛を得られない悲しみを語る場面が切ない。場面変わっての、母・兼子(高麗蔵)の、反抗的な息子を愛せない罪悪感の告白と対を成して、この母子関係に、親子の難しさを感じた。
二幕からは、父・義満と兄・義嗣を次次殺していく足利義教(松本幸四郎)の悪人ぶりがはじける。セリフ回しがうまい。休憩を挟んでの第三幕では、臣下の畠山満家(中村芝翫)が義教の黒幕的存在から、一気に失脚し、身も世もなく将軍に縋り付く姿が哀れ。義教が「良心とは何か。(略)それは弱い心だ。そんなものは持っていない」と、満家を無残に切り殺す。非情ぶりが極まれる。
歌舞伎は見ても、なかなかよさがわからないことが多い(現代劇と違い)。この芝居は昭和に書かれた新作で、セリフもわかりやすいし(もちろん歌舞伎調だが)、登場人物の心理も(義嗣・兼子の母子のように)現代に近い。野望の実現から転落まで、端的なセリフにしぼり、正味2時間でスピーディーに見せる。大変楽しめた。