ハムレット 公演情報 世田谷パブリックシアター「ハムレット」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    生と死を前面にテーマに据えて、それは今回、補筆された冒頭と幕切れの声にも表れている。「ハムレット」が生と死、特に死について思索をめぐらす芝居だと初めて感じた。To be or not to be の有名なセリフもそうだが、ハムレットの独白の多くは死について考え、墓場のシーンや、クローディアスの祈りに遭遇するシーンも生と死についてのものだ。

    もう一つの、実は最大の特徴はジャパニーズ・ハムレットともいうべき斬新な演出にある。亡霊は能の仮面と歌舞伎の獅子の被り物に銀糸の和服。音楽は雅楽、尺八、三味線。ゴンザーゴ殺しの劇中劇は歌舞伎調で、一人二役の二人羽織。黒澤明の「蜘蛛巣城」(マクベス)「NINAGAWAマクベス」につづく、和風シェイクスピアとして、大変面白かった。

    野村萬斎はさすがの貫禄である。クローディアスの祈りの場面の緩急自在は圧倒的。野村裕基のハムレットは少々きゃしゃで線が細い感じがしたが、劇が進むにつれ、大きく見えてきた。発生、セリフづかいが狂言仕込みなので、父・萬斎ににている。それが朗々としてよかった。藤間爽子のオフィーリヤは、発狂後がよかった。歌いながらの皮肉や甘えのセリフにピュアな存在を印象付けた。

    台本も河合祥一郎の苦心の翻訳で、日本語のしゃれがたっぷりちりばめられていて新鮮。「神殿で死んでんのか」とか。原文はどうなっているのだろうかと思いながら、面白かった。

    最後に、デンマーク王国の宮廷での悲劇の裏で、フォーティンブラスの進軍の話を忠実にとりいれていた。カットする演出が多い部分。フォーティンブラスの雄姿を遠望しながら、ハムレットが何のための戦争かと聞く場面。ポーランドの何の意味もない土地の取り合いですと。ハムレットの国での軍拡のこともわだいにのぼる。現在のウクライナの戦争と日本の軍拡が否が応でも連想される。権力で「何かが腐っている」「この世のタガが外れてしまった」国の背景には、軍拡と戦争があったということを改めて教えてもらった。
    前半1時間45分+休憩15分+後半1時間半の計3時間半。全く飽きることなかった。

    ネタバレBOX

    ハムレットの謎とは、なぜ彼が逡巡し続けるかというところにある。その謎をめぐって様々な解釈がされてきた。確かに、(とくに独白で)逡巡する自分を鼓舞するセリフが多い。と同時に、行動的で能動的面も見える。ガートルードの寝室で、クローディアスと間違えてポローニアスを刺し殺してしまう素早さは印象的だし、旅芝居の一座にゴンザーロ殺しを振り付けするあたりは、なかなかの狂言回しぶりだ。

    そういう矛盾した面が見えるハムレットだが、イングランド行きの海路から海賊船にさらわれて帰ってくると様変わりする。クローディアスが自分を殺そうとしていることを知ったこともあろう。オフィーリアの死もあろう。レアティーズとの剣術試合に向かう直前「覚悟がすべてだ」「なるようになれ」には、今回、はっとさせられた。

    こうして「ハムレット」は、貴人が、苛烈な運命をひきうけ力の限り生きて死んでいく典型的な悲劇として完結する(「子午線の祀り」の知盛もハムレットの血を引くといえよう)。ハムレット死後、フォーティンブラスのセリフに「運命」の言葉が見える。(それまではなかったのではないか)

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    2023/03/07 01:14

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