実演鑑賞
満足度★★★★★
20代の時に岩波文庫で読んだ。冒頭の有名な一行、不倫の恋、最後の鉄道自殺などは知っていたが、それは昔読んだからではなく、あちこちで言及されるから。舞台は肝心な話を思い出させてくれた。冒頭、なかなかヒロインが登場しない。登場すると同時に、ヴロンスキーと恋に落ちる。同時に、将来の悲劇を予兆する轢死事故がおきる。さすがの幕開けである(これは小説がそうなっている)。
あらかじめ上演時間を見ていなかったので、休憩なしで1時間を超えて延々続くのを見て、てっきり終幕まで行くのかと思った。アンナが愛人のヴロンスキーに妊娠を告白したら、彼は「こんな偽りの生活は終わらせよう」。一瞬、このまま愛人に捨てられて自殺か、「アンナ・カレーニナ」も妊娠小説(©斎藤美奈子)だったのかと。あにはからんや、そのセリフの意味は「夫と離婚してぼくと結婚してくれ」。アンナの産後の瀕死の床で夫カリーニンはアンナを許し、ヴロンスキーは逆に絶望して自殺未遂する。これで前半終わり。以上1時間40分。20分の休憩をはさんで後半は1時間45分。総計3時間45分のたっぷりした芝居だった。でもまったく飽きなかった。トルストイのあふれる創作力に脱帽。また、俳優陣の魅力ある熱演と、演出、美術、音楽あいまった舞台の造形が素晴らしかった。
前半のヴロンスキーの魅力に負けまいとするアンナの抑制した行動に好感持てた。ヴロンスキーと生活する後半はアンナの心理分析ドラマのよう。根拠のない嫉妬にはまりこみ、錯乱していく。てっきり愛人に捨てられて自殺するのかと思ったら、ヴロンスキーは全く浮気などしていない(原作も確認したらそうだった)。嫉妬と疑惑の自家中毒の末の自殺。原作も最後、衝動的に鉄道に身を投げていた。
アンナとカレーニンの口論で、互いに口に出すこととは異なる心の内を、客席に向けて傍白していた。かなり忙しくコミカルでもある。リョービンもキティとの口論で「僕も結婚したから皆さんに話せるようになりました」と傍白する。結婚すると傍白できるようになるとは、夫婦関係は我慢とうそ(愛という名のウソ)がだいじということかもしれない。