実演鑑賞
満足度★★★★
#星野卓誠 #倉貫匡弘
#長谷川景 #森下庸之
#藤堂海 #清水直子
#齊藤尊史 #岩井七世
#井上裕朗 #宮越麻里杏
#伊藤俊輔 #橘麦
#坂井宏充 #根岸晴子
#石井麗子(敬称略)
中津留章仁さんの素晴らしさはスピード感だと思う。そして、社会に目を向けたアンテナの高さと感度。そこにある理不尽な出来事、特に政治や権力によるソレに対する批判の目。かつての演劇には存在したそういうメッセージや社会批判の力を持った作品が少なくなっている現在、その姿勢を持ち続ける氏に敬意を表したい。
今回も2021年3月の事件を題材にしている。奇しくも2月15日に第5回口頭弁論で、収監されていた女性の様子を写した映像の公開が決定されたばかり。話題としても絶妙なタイミング。恐らく多岐にわたる資料を当たり、多くの取材も行って構築されたであろう本の持つ説得力に、客席がグイグイ引き込まれていく。
作品が包括するこの国の政治的な問題における危機感を共有したキャストの皆さんの、『多くの人に伝えたい』という上演に対する熱量が凄い。
それぞれの人物に語らせる言葉に苦悩と憤りが宿る。ところどころで氏からのメッセージが代弁される。チョイチョイ顔を出す現政権や独裁的な政治家への批判には大いに拍手を送りたい。ただ、言いた過ぎるのだろう、強引に挟み込んでる感じを受ける部分はあって、もう少し上手いこと……ね。
今作の見どころは、井上裕朗さんと清水直子さんによる局長と新聞記者の取材バトルに違いない。これはたくさんの人に観て聴いて貰いたい。責任を負う『長』という立場にある者は、もっと冷静で傲慢で落ち着き払って対応するように思うので、少々過剰演出な気もするけれど、最初からヒートアップして攻め合うやり取りが、事の重大さによって大物も冷静さを欠くのだと、動揺しているのだということであれば成功なのかもしれない。
それにしても、井上さんはこの役と最初に登場する役とが真逆の立場で、その振り幅を演じ分けるのが本当に凄い。
そして、橘麦さんと伊藤俊輔さんの、作品や役との距離感がとても好きだった。
今、この問題を世に届けたいという情熱がたくさんの人に伝わることを望む。
願わくは、いつか再演する時にもう少し物語が滑らかに流れるとイイ。特にカノ女性が登場するシーンと、カノ女性について最初に討議するシーンは、フワッとしていてしっくりこない気がしたし、まだ乗れないキャストもいるように思えたから。
確かに新鮮なサカナは魅力的だけれど、手をかけて熟成させたサカナは旨味を増すはず。時間をかけて手もかけて、じっくり旨味を引き出してまた板に乗せて欲しい。
ともかく、今作の観劇によって多くの人がこの国について考えるキッカケにしてくれたらと願う。このカンパニーの願いも、そうに違いない。