対話 公演情報 劇団俳優座「対話」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    強姦殺人事件の被害者の娘の父母と、加害者の母、姉弟、伯父。さらに調停人のマニングと、性犯罪者の更生に取り組む心理療法家、8人出ずっぱりの会話劇。被害者遺族の夫婦は、怒りと憎しみをぶつけ、加害者の母は「私たちも痛みを抱えています」「それでも私の息子なんです」と許しを請う。弟は「殺人犯の弟」の烙印を押された恨み、終身刑の兄スコットに死んでほしいと、被害者遺族と同じ気持ちだと叫ぶ。大学卒の姉は、弟の貧しく放置された生育環境を考慮してほしいと自説をぶつ。心理療法家の女性は「彼は良くなっていた。釈放を求めた判断に誤りはない」と自己弁護する。

    遺族の母は「あなたたちは私たちの痛みを理解する入り口にも立っていない」と迫り「奪われたのは未来だけではない、娘の過去も奪った」と。アルバムを見ると、悲惨な最後に至ることが思い出されて、アルバムもみられないと泣き崩れる。
    どこにも救いの見えない前半から、どう何らかの結末を引き出すのか、目が離せない。

    出演者はみな熱演で、ヤマ場では本当に互いに泣いていた。加害者の母を演じた山本順子は、貧しく弱く哀れな母親そのものだった。2時間10分休憩なし

    ネタバレBOX

    最初互いに憎しみ、責任を擦り付け合い、自己弁護しあう。被害者遺族のバーバラが「娘の話をしたい」と、13歳の誕生日パーティーの思い出を語り始めるところから、雰囲気が変わる。さらにキッチンをカナリア色のペンキで塗り替えた思い出を語ると、父も急に言葉に詰まり泣き出す。そこで胸をつかれた。憎しみや怒りをいくらぶつけても人は共感しない。人を責めることをやめ、自分の悲しみ(弱さ)を見せた時、人は心を動かされる。これは万国共通の真理だ。

    心理療法家が、自分の判断ミスを認めるところから、次々と自分が悲劇を防げたのにやらなかった後悔を語り始める。かたくなだった被害者の父も、ついに「防犯ベルを買うと約束したのに、忙しくて買ってやらなかった」「学歴のないミュージシャンとの結婚を認めなかった」と懺悔を口にする。スコットを、刑務所内のリンチから守るための保護官房行きを、すぐには同意しないが、変わるかもしれないことをにおわせて終る。

    最後、マニングが「今日は何がえられましたか」と問うと、被害者の父は「軽くなった」と答える。「ラビットホール」のハイライト場面を思い出した。そこで幼い息子を亡くした母は、自分の母に問う。「悲しみは消えるの?」「いいえ。でも変わる」「どう?」「軽くなる、持ち運べるくらいに」と。

    自分の過ち後悔を口にすることで、浄化されるのは、キリスト教の「懺悔」と告解からきている作劇術ではないか。公開中のアメリカ映画「対峙」は、高校乱射事件の加害者被害者の4人の対話を描く。ここでも、加害者の息子、被害者のむずめの思い出を語るところから、心を開きだす。そして互いが自分の過ちを口にし、後悔を語ることで心が近づく。「対話」とよく似ている。ストーリーのモデルが何かあるのかもしれない。

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    2023/02/13 23:59

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