止まらずの国 公演情報 ガレキの太鼓「止まらずの国」の観てきた!クチコミとコメント

  • 異国の空
    初見。前回がマンションでの覗き見公演だったから、今回もさぞかしナチュラルな芝居が見られるんじゃないかと勝手に期待したのだが、残念ながらテンパったときの役者の演技が大袈裟すぎて、いささかゲンナリしてしまった。

    ネタバレBOX

    芝居が始まると、壁にかかっている肖像画にアラブの民族衣装を着た人物が描かれているのが見えたので、舞台が中東のどこかの国だろうということはわかったが、開演前に流れている音楽は、実際には中東の音楽なんだろうけど、なんだかスコットランドのバグパイプの演奏のように思えた。

    芝居は平田オリザの「冒険王」に似た設定で、日本人旅行者が宿泊する旅先の宿が舞台になっている。平田作品では外国が舞台であるにもかかわらず外国人はまったく登場しなかったが、この作品では現地のアラブ人や旅行者の韓国人が登場するし、言葉も現地語や英語の入り混じったものをしゃべっている。珍しいと感じたのは、その外国人の役を日本の役者が演じていること。アラブ人を演じるときにはきちんとメイクで顔を黒く塗っている。

    作者の舘そらみは1年間の世界一周の旅をした、とチラシに書いてある。実際、旅先の宿でのディテールにはその経験が反映されているようだった。旅行者同士が用不要になったいろんな品物をやり取りするというのもその一つだし、10年も前のガイドブックが持ち主を替えながら今だに活用されていたりする。これからその国へ出かける人と、その国からやって来た人との間で紙幣の交換が行われるというのも旅行者らしい知恵だ。パスポートと金銭を肌身離さず所持しておくというのは海外旅行者にとってはむしろ初歩的な教訓かもしれない。

    いずれは日本に帰るという現実をどこまで引き伸ばせるか、そんなモラトリアムな時間を過ごしているのが、一般的な長期海外旅行者だとすれば、もはや故国が帰る場所ではなくなってしまった仙人のような旅人もいる。

    作者の海外体験に基づいた芝居という意味で、前半はそれなりに楽しめたのだが、後半では旅先の政情がにわかに不穏になって、旅行者たちはまるで籠城するように宿泊施設で孤立してしまう。
    外には戦車や兵士があふれ、ときには銃声めいた音が響く。さらには空爆のような轟音と光。宿を経営するアラブ人はいつのまにか姿を消し、上の階の宿泊客もみんないなくなっている。

    アメリカ軍によるイラク戦争でのバグダッド空爆を連想させる場面だった。おそらくここは作者自身の実体験ではないだろう。一夜明けると街はお祭りムードに包まれて、昨夜の緊迫感がまるで夢のように思われる。

    海外旅行者がいつ戦争に巻き込まれるかもしれない危険を抱えていること、それにひきかえ、そうした危険に対する日本人の意識の低いこと。作者が描きたかったのはその辺ではないだろうか。

    ただ、政情不安な国を旅するとき、旅行者はその辺の情報にもっと敏感ではないのかという疑問を感じる。携帯電話を持っているなら、日本からの情報も得られるはずだし、宿のアラブ人経営者や上の階の宿泊客が何も告げずに姿を消すというのはちょっと水臭いのではないだろうか。昼間は平和そのもので、夜にいきなり戦争状態というのは、いくらなんでも唐突すぎると私には思えた。


















    0

    2010/03/30 01:21

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大