完全な真空×BLACK BOX 公演情報 演劇ユニットG.com「完全な真空×BLACK BOX」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    リアリストたちのブレイクタイム。
    何をして誰のために生きるのか。その大きな問いかけはこの話に出てくる主人公たちにとっても例外ではなくて、理想と現実の揺りかごのなか、身の丈にあった幸せに折り合いをつけつつ暮らしている。 そんな彼、彼女らがある日それぞれ、すこし不思議なひとらに出会い、すこし不条理な体験をして、またいつもの日常に戻っていくまでの会話劇。
    日常と非日常をゆるやかに隔てる空間に、丁寧に配色が施された照明と、
    ミニマルでいて適度にメロディアスな音響が印象的でした。

    ネタバレBOX

    普通に仕事をして普通に生活していることに疑問を持っていないサラリーマンと仕事に対するストレスや、将来に対する不安を抱えているOLが主人公の短編、2本立て。

    『完全な真空』はある日、偶然か必然か、地下迷路に迷い込んでしまったサラリーマンが遠い未来の自分と、近い将来妻となる女性に出会う話。

    舞台装置がベンチひとつで浮浪者が出てくる辺り、場面設定こそ違えど不条理に重きを置いているので、ベケットや先月のイキウメふたり会で上演された岡田利規さんの戯曲『二人高利貸しの二十世紀』を思い出しました。

    G.comは毎回不条理をテーマにした作品を製作されているそうですが、本公演は不条理SFオムニバスと公演を打っていますので、常人の理解を超えた超常現象的な『SF(すこしふしぎ)』要素と、思わせぶりな言動の積み重ねによって、常人の理解を超えた理不尽と思しき感情の連なりを体現する『不条理』の美しいハーモニーを期待しました。
    2作品ともSF(すこしふしぎ)なコメディテイストな作品としては楽しめたのですがSF(すこしふしぎ)な不条理劇という観点から見ると少々肩透かしを食らった印象です。

    情報開示をどのタイミングで行い、そしてどこまで謎を残すか。がSF(すこしふしぎ)作品には欠かせないとおもうのですが、その鍵の使われ方が勿体ないと思うところがありました。

    たとえば、とても些細なことですが冒頭の、人びとが忙しなく行きかう都会をイメージするシーンからその他大勢が掃け、彼がひとり立ち尽くし、地下迷路に関心を持ち、中に入るまでの回想をモノローグする場面は、何も説明せずして無言で地下の階段を下りてく方がミステリアスなような気がしましたし、どうして地下迷路に彼が来たのか。は浮浪者が彼に教えてあげるべきことだったように思います。
    また、浮浪者は彼のその後の人生をすべて熟知していますから、『私は何でも知っていること』 『君の未来が見えること』を彼に知らしめ、それを知った彼は、浮浪者は狂人か胡散臭い占い師なんかなんじゃないかと不審を抱きながらも自分の未来に関心を寄せる…。
    するとこの地下室にいるべき人物は、彼と浮浪者で、後に彼の妻となる女性は、浮浪者と彼の合意の元で(運命的に)あらわれる方がナチュラルですし、最後のシーンは、人生に絶望していた浮浪者が若かりし頃の彼女の姿を見て生きる希望を取り戻し、浮浪者と彼女が脱出して彼が地下室に幽閉されることの方が不条理なように思えてくるのでした。

    再び、雑踏を人びとが行きかう都会的なイメージの場面の後に、映画館で鑑賞している人びとのワンシーンが挿入され、先ほどのベンチが今度は映画館でのワンシーンとして使われ、役者が観客に背を向けて何も映っていないスクリーンを見ているのに場内から笑いが零れている音響が不思議さを醸しだして…。

    つづいて2作品目、BLACK BOXはある晩公園を散歩していた普通のOLが公園のベンチに置いてある箱を偶然見つけ、それに触れたら世界の、人類の運命を決めることになってしまった、ある晩の夢のお話。

    夢の中が現実で、現実が夢のようだ。という感覚が、当パンで言うところの芥川龍之介的な世界観を意識した部分だとおもうのですが、この作品のなかでの夢と現実はその感覚とは少し違っていて、夢はお金が自分のもとにたくさんあること。でも現実は使えない部下とヒドイ上司の板挟みになってる結婚適齢期を過ぎた女性というだけで、大事なモノはお金。と主張していた普通のOLがどうして世界平和を願うまでに発展していったのか、人類の運命を決めるという重要な選択の必然性がなぜこの箱に隠されているのか、わかりませんでした。が、登場するキャラクターは面白かったので、コメディとしては楽しめました。

    8

    2010/03/29 04:23

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  • Hell-seeさん、アキラさん

    はじめまして。

    作演出の三浦剛です。
    Hell-seeさんの、レビューと非常に興味深く読ませていただきました。
    「すこいなー。こんなに深くみてくれているんだなー」と感服するばかり。

    正直僕自身、文筆は大の苦手で、小学校時代は国語で0点をとったことがあるぐらいなので、「完璧な戯曲」というのを書くことはできないと考えています。その分、戯曲の穴を、どう埋めて、さらにその穴を埋めることによって新たな価値観?新たな謎?みたいなものを出せたらなぁ。というような思いで演出にあたりました。「あれは、実はこいう意味なんですぅ」的なことが言えればいいのかもしれませんが、それを言えるほどの脳みそは僕は持ち合わせていないようです。

    Hell-seeさん、アキラさんのコメントも非常に面白かったです。

    今後ともG.comをよろしくお願い致します。

    G.comのメインは不条理SFですが、固定せずにまだまだ色々とやっていくつもりです。

    次回は、川端康成の「千羽鶴」。
    で、女性3人の一人芝居3本立て。
    戯曲はG.com文芸部の岡田さんが書きます。

    是非ご来場ください。

    演劇ユニットG.com 代表 三浦 剛

    2010/04/02 15:47

    Hell-seeさん

    >何かモノ申したい時にはいつも上司が大好きな某コンビニのエクレアを用意するくらい

    おっと袖の下ですか(笑)。でもコンビニのもので満足していただけるのならば、よしとしましょう(笑)。エクレアでハードルが下がる上司ってのも・・笑。

    >ネットの場合、言葉がすべてで、このような小細工が利かないのが何とも悩ましいところですね…。

    確かにネットは難しいです。その言葉を書いている人の表情や、その人の人柄まではわかりませんので、発言の意図がわからなくなってしまうことがあります。
    Hell-seeさんも書いてらっしゃったように「嘘をつかない」ことで、書いていることの真意をくんでいただくしかないのでしようね。例えば、ここ、こりっちで言えば、今まで書いたレビューも読んでいただければ、何を言わんとしているのか、また、悪意があって書いているのではないということなど、ある程度はご理解いただけるのでしょう。

    2010/04/01 07:45

    >アキラさん

    >逆に「なんでこうなんだろう」という良くない面も見えてきてしまうんですけどね

    わかる気がします…。プライドを傷つけないで言いたいことを言うってなかなか難しいですよね。
    私などもそれについては日々悩まされておりまして、特に自分の上司などは無駄にプライドが高く、何かモノ申したい時にはいつも上司が大好きな某コンビニのエクレアを用意するくらいです。ネットの場合、言葉がすべてで、このような小細工が利かないのが何とも悩ましいところですね…。

    2010/04/01 07:06

    Hell-seeさん

    私もトンチンカンですよ・・・ってHell-seeさんがトンチンカンと言ってるわけではないのですが(笑)。私も思ったままを直接的に書いてますので、後で読んで冷や汗モノの文章も結構あります。

    >映画解説者の淀川さんが大切にしていた『どんな作品にもひとつくらいはいいところがある精神』をいつまでもリスペクトしていたいものです。

    それはいい言葉ですね。私もできるだけ良い面から観るようにしてます。絶対にどんな作品にも良いところがあるからです。でも、それを探していると逆に「なんでこうなんだろう」という良くない面も見えてきてしまうんですけどね

    2010/04/01 05:54

    >アキラさま

    再びコメントをいただきまして、ありがとうございます。
    確かに肌に合う、合わないはありますよね。
    面白いと思う基準も人それぞれですし、好みの問題といえばそれまでなのですが、
    ただダメだった。と一蹴りするのではなくて、どうしてダメだったのか。を論理的に書かれるアキラさまのレビューは製作者の方々にとって、有難い存在なのではないでしょうか。
    私の場合、感覚だけで観てしまうので、トンチンカンなことを多々書いてしまっているかとおもうのですが、嘘だけは書かないようには心がけています。
    映画解説者の淀川さんが大切にしていた『どんな作品にもひとつくらいはいいところがある精神』
    をいつまでもリスペクトしていたいものです。笑

    2010/03/30 17:35

    Hell-seeさん

    >個人的には、会話で世の不条理さを紡いで欲しかったなぁとおもうです。

    なるほど、そういう方向もあったわけですね。それはそれで面白くなったと思います。

    私は、Hell-seeさんのようにアイデアは出てきませんでした。ただ単に面白かったかそうではなかったか、という軸でダメ出し的な感想しか書けなかったので、Hell-seeさんのレビューは面白かったです。
    ま、単純に、肌に「合う」「合わない」ということなのかもしれませんが。

    2010/03/30 06:58

    >アキラさま

    コメントありがとうございます!

    >上記に続き、『完全な真空』の展開としての、Hell-seeさんのアイデアが書かれていますが、これなら納得度は高いですね。なるほどと思いました。

    高評価されている作品ですので、正直な意見を書くことを躊躇ったのですが、
    見ていくうちにどうしても自分のなかに矛盾が生じてしまったので、このような形で書かせて頂いた次第です。
    私もアキラさま同様、G.comは非常にセンスのある団体だと感じました。


    >それまでのいろんな人たちとの絡みで、彼女が何かを得たように思えないだけにです

    私も愛とお金。というテーマはキャッチーで現実的な問題だとおもうのですが、それとBLACKBOXという要素が上手くシンクロしていなかったように思えてしまいました。
    彼女が人類の運命を決める人物として選ばれたからBLACKBOXが現れて科学者たちがやってきた。そして科学者たちが彼女に選択を迫る。ということならわかるのですが、それじゃあ普通すぎて面白くないから、何気なく散歩してたら偶然見つけて、変なひとたちがやってきた。ということになってしまったのかな。なんて妄想さえしてしまいました。個人的には、会話で世の不条理さを紡いで欲しかったなぁとおもうです。
    今回の2作品は、何を求めいたか。によって評価が変わってくる作品なのかもしれませんね…。
    とここまで傍若無人に色々と書いてしまいましたが、不条理でSFという難しい組み合わせにチャレンジされたことに敬意を表したいとおもいます。

    2010/03/29 22:31

    >たとえば、とても些細なことですが冒頭の・・・・

    上記に続き、『完全な真空』の展開としての、Hell-seeさんのアイデアが書かれていますが、これなら納得度は高いですね。なるほどと思いました。

    また、
    >大事なモノはお金。と主張していた普通のOLがどうして世界平和を願うまでに発展していったのか、人類の運命を決めるという重要な選択の必然性がなぜこの箱に隠されているのか、わかりませんでした。

    これも同感です。大事なことなのに、ラストの展開が唐突すぎるような感じを受けました。それまでのいろんな人たちとの絡みで、彼女が何かを得たように思えないだけにです。

    2010/03/29 07:09

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