実演鑑賞
満足度★★★★
根本宗子ノリノリの頃のスズナリ公演を楽しく観たのが最初、その後割とすぐに観たのがもう一つな内容で、恐れ知らずの若い感性が必然に突き当たる壁、という印象があって結局数年観なかった(評だけは見ていたが伸び悩んでる様子だったような..)。
今回は劇作家&演出家としての数年分の深まりを見た思いで少し嬉しかった。作劇の方はばっちり、とは行かないが、女子の実感に発するリアリティが横たわる感覚があり、ストーリーそのものより瞬間に見せる煌めきが点として記憶にに打ち込まれる感じである。とは言え作劇は「謎」で関心をひきつけ小出しに解いていくサスペンス型ではあるが。
生演奏の音楽の使い方が贅沢である(ヴァイオリンソロ及び弦楽四重奏)。が、それもこれもこのためであったか、と思わせる主人公による歌が最後を飾る。キャラ的には口には出さないだろう高畑充希演じる三十女子(歌う場面では年齢は不詳)の心の声が歌に乗って暴発するが、実際のところ、歌詞が入って来ない箇所があって惜しく、惜しいだけに拳に力が入り、思わず頑張れと心中応援目線。それを引き出すだけの歌唱力(私は初)とも言える。
一人の人間を人生の最後まで思い続ける、イデア的な愛が、劇の最後に残される言わば神話的な語り終わりの中に、作者はどうにか普遍的な何かを書き込めたのかな、とも思う。
男はその最後の日に女の前に現れて、自分が戻れば繋がれると信じていたがその目的地に辿り着くのに遠回りしてしまうのが自分、こんなに時間が掛かってしまったよ、と言う。女は男の腕の中で、これまでの長い長い苦しみがなかったかのように貴方が今ここにいる事が嬉しい、と言い息絶える。
根本作品だけに女が生きた日々の具体が様々に想起されるのであったが、日々を刻むしかない受苦の実存と人の人生をシンプルに規定するものの存在が脳を駆け巡り、根本流に演劇たり得ていると感じた次第である。