完全な真空×BLACK BOX 公演情報 演劇ユニットG.com「完全な真空×BLACK BOX」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    よくできているのだが、ちょっと残念
    自分で自分自身のことをきちんと考える。さらにそれを、あえて声に出して言う。そんなことが大切なのだということがテーマになっていた。

    これは、とてもシンプルでわかりやすい。

    しかし、フライヤーに「SF」であると銘打っているが、残念ながら、それに大切なセンス・オブ・ワンダー的な要素をほとんど感じなかった。

    ま、それはどうでもいいことだけど、とても良い役者と演出であっただけに、内容に関して逆に厳しい評価をしてしまう。

    間違いなく、劇団の持つレベルは高いのだが。

    ネタバレBOX

    短編ならば、凝縮された味わいがほしいのだが、物語の芯(テーマ)に凝縮されていくようなエピソードもなく、物語のための物語が舞台の上で行われていたように感じてしまった。


    ■完全な真空
    いわゆるメビウスの輪のように前と後ろとがねじれて続いているような物語。
    ただし、そのオチがあることが前提のストーリーに感じてしまった。
    物語のための物語というか。

    地下世界に行ってしまった女は、そこにいるホームレスのような男に強い執着をもたれているということと、女が後から来る男と出会うということが、この物語の前提としてあるのだが、それを理解した上でも、どうも基本的なところでの違和感が起こってしまった。

    それは、つまり、後から来る会社員の男に、ホームレス風の男が「自分がなぜもとの世界に戻りたのか」つまり「自分はどう生きたいのか」を繰り返し問うのだ。
    それに会社員の男が答えること、つまり自分の存在意義というか、人生の目標のようなものを、強く考えることで、もとの世界に戻れるのだ。
    しかし、ホームレスの男は、先に来ていた女にはそれを問わずに、単に会社員の男に付いて行け、とだけ言うのみ。

    これはどういうことなのか。つまり、女の人生は、自分で考えるのではなく、男の人生に従うだけでいいという思想が根底にあるのだろうか。
    あるいは、男が自分の人生を真剣に考えたときに、生涯の伴侶を手にできるということなのだろうか。

    この展開はなんだかな~と思ってしまった。

    てっきりこの先に何かがあるのかと思えば、蛇足的にファーストシーンの繰り返しのみで、単に説明台詞で、彼らのこれからのエピソードと、この世界のネタバラシをするだけ。

    短編なのだから確かにワンアイデアで十分だとは思うが、中間部分の3人の登場人物のやりとり(台詞)が活きてこない。伏線も何もないし、会社員の男(ホームレスの男)の深みにも行かない。

    なぜ、会社員の男が自分のこれからを真剣に考えなくてはならなかったのかが、見えてこない。具体的な理由ではなく、何かがほしかったのだ。主張と言うか、何かが。

    タイトルの「完全な真空」も台詞で繰り返されるのだが、それと主人公の関係も思わせぶりなだけな印象。

    役者3人は熱演だっただけに、もったいないと感じた。

    ■BLACK BOX
    夢を見ていると言いはる男、研究者と名乗る2人組。
    いずれも、主人公の女性の内面とは絡んでこない。

    主人公の女性は、いろいろなことに悩み疲れている。そこに先の3人が現れて騒動らしきものが起こるのだが、彼らが主人公と絡むのは「夢」「ブラックボックス」というキーワードのみで、彼女の内面を照らすわけでもなく、抉るわけでもなく、彼女の中の何かのきっかけになるわけでもない。
    不思議だ。単にちよっとした笑いのためのドタバタを見せるだけ。
    笑ってじんわりとするわけでもなく。

    短編でわずか4人しか登場人物が出てこないのに。どうしてなのかと思う。

    ラストで、主人公の女性が、自分の望みは「お金」「愛」と悩むところは、妙にリアルだったし、ブラックボックスを開けたときの効果も面白いと思った。
    しかし、それは唐突すぎて、もったいない。

    もっと丁寧に彼女の気持ちの変化や状況を、彼女に絡む3人とのやりとりで見せてほしかった。

    彼女の気持ちが、具体的に示されるのでもなく、さりげなく観客に伝わるわけでもない。単に自分の口で「大変なのよ」と説明させるだけ。しかも、中間部分のドタバタが特に活きてくるわけでもなく、単なるドタバタにしか見えず、残念。

    変な登場人物たちで、不思議の国のアリスのような、ちょっとシュールな展開を狙ったのかもしれないが、シュールとまでは行かずに単に変な人たちであり、彼女のいらだちが、彼女に変化をもたらしはしない。結局自分で考えるるのだが。もちろん、自分で考えることが大切なことはわかるが、せっかくの舞台なんだから、変化か何かを、こちらにも感じさせてほしかったのだ。

    彼女がわずかに変わったとすれば、自分の本当にほしいモノを真剣に考えたということがあるが、そこに行き着くまでのプロセスが乏しい気がした。

    そして、2つの短編が終わった後に、2つの物語の主人公たちが、電車ですれ違うシーンがこの舞台のラストになるのだが、これは何だろうか。
    単に2つの短編をつなげるだけのためのシーンであり、あまりにも凡庸というか、普通すぎるし、意味も感じない(無理に意味を考えれば、考えられる程度のこと)。
    本当にこのシーンは必要だったのだろうか。疑問だけが残った。

    2つの物語は、どちらも、今回のエピソードを通じて、「自らのことを真剣に考え」さらにそれを「自らの口で言う」ということで、とても面白いと思ったし、いいテーマだと感じた。
    しかし、それが中心にきちんと据えられているにもかかわらず、そこまでが直線的に示されるだけで(唐突とも言う)、物語としての膨らみのようなものが感じられなかった。

    演出の手際や役者の存在感など、なかなか見るべきところがあったのだが、肝心の物語に今一歩魅力が感じられず、ちょっと残念。

    フライヤーもカッコいいと思ったのに。

    6

    2010/03/26 04:40

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  • コメントありがとうございます。

    思いつくままに書きましたが、丁寧に読んでいただき恐縮です。

    >18歳で芝居を始めて13年、ずっと独学で書いてきていますので、土台がない。

    それは別に問題ないと思います。もちろん、学ぶことで得られるものもたくさんあるでしょうが、こうやって実際に感想を聞き、フィードバックることにもメリットが多いと思います。
    むしろ、「ずっと独学で・・・」「土台がない」なんていうことを逃げにしてしまうのであれば、そちらのほうが問題になると思います。もし、本気でそう考えているのならば、いつまでも愚痴を言ってもはじまりませんので、どこかで学ぶべきではないでしょうか。
    それよりも、今のままでいいと、すっぱりと考えたほうが、ご自身の精神衛生上も観客にとってもよいと思います。「これじゃよくないかもなあ」というような、ちょっとした不安を抱えながらの作品を見せられる観客は楽しくないですし(笑)。
    実際、作品にはその人の思想や、オーバーに言えば生き方までも現れてくると思います。それに責任が持てるのであれば、今のままでいいと思うのですが。

    >そんな数年が続いての現在、「物語」性を、極力下げて、テーマしかもたない「御伽噺」のような世界で、俳優、空間、音響、照明、演出などによる総合的な魅力で舞台芸術を創作していけないものか・・・という思いから生まれたのが、今回の公演だったように思います。

    なるほどと思いました。確かにお書きになっている内容そのままで、御伽噺のような理不尽さ、脈絡のなさ、それを総称して不条理ともいえる世界だったと思います。
    ただ、それでも主人公がいて、結論めいたことに到達するのであれば、その筋道はほしいと思うのです。
    唐突で、いきなりのエンドで、それには意味もない、というのならば、それはそれで面白いと思いますが、三浦さんが「テーマ」と書いてらっしゃるように、「そこに何かを込めて」いるのであれば、意味もありますし、思想や考え方もあるのだろうと思います。そこを見せていただきたいと思うのです。

    この舞台は、初演のときには、生演奏があったということを知りました。その演奏という「背骨」のようなものがあったとすれば、その「音楽」や「音」にも観客は意味を求めて観劇したでしょうから、その文脈があったときと、なくなったときとの違いが、今回露わになったのかもしれないなぁなんて思ったりもしています。

    ひょっとしたら、かなり失礼な書き方になってしまったかもしれませんが、そう感じました。

    2010/04/03 08:33

    アキラさん

    はじめまして、作演出の三浦剛です。

    アキラさんのレビュー&コメント、非常に興味深く拝見させていただきました。

    なんだか、確信をつくコメントが多くてドキドキです。アキラさんの仰っている「物語」に関してですが、「まあ、僕自身の作劇の腕が低い」というのが最も大きな要因でしょう。18歳で芝居を始めて13年、ずっと独学で書いてきていますので、土台がない。これは、他の仲間にもよく言われることです。

    ただひとつ、どうしてもアキラさんがすっきりしない原因、もやもやしたなにか・・・というのは、「物語」と「御伽噺」の違いないのかな?なんて、考えながらコメントを読み進めていました。最近の僕はどうも「物語」ってやつに飽きがきておりまして、ドラマの「24」なんぞをはじめてみたときはその物語の面白さに「くそったれ!こんな面白いもん書けるか!」と憤慨してみたほど。

    そんな数年が続いての現在、「物語」性を、極力下げて、テーマしかもたない「御伽噺」のような世界で、俳優、空間、音響、照明、演出などによる総合的な魅力で舞台芸術を創作していけないものか・・・という思いから生まれたのが、今回の公演だったように思います。

    もちろん「物語」も大好きなので、これからチャンスとタイミングがあれば「24」を超える「物語」も書きたいなと考えています。

    ご来場、本当にありがとうございました。
    今後ともG.comをよろしくお願い致します。

    演劇ユニットG.com 代表 三浦剛

    2010/04/02 17:00

    KAEさん

    再びコメントありがとうございます。
    私ももちろん注目しています。
    同じように感じるところと、そうではないところが、レビューを読む楽しさなので、きっちり書き込みがあるKAEさんのレビューは、読み応えがあると思っています。

    2010/03/28 07:38

    アキラさん、ご丁寧に、両方にご返信コメント頂き、恐縮です。
    これからも、自分が観た観ないに限らず、アキラさんのレビューは楽しみに拝読させて頂きます。とても、舞台を的確な目でご覧になっているので、いつも、感服しております。

    2010/03/27 20:29

    KAEさん

    コメントありがとうございます。

    舞台作りにおいて、とてもレベルが高いだけに、細かいところが気になったような気がします。
    というか、細かいところというか、大切な幹の部分でのすれ違いのような。
    私の感じ方のほうが特殊なのかもしれませんね。
    どうもストレートに観ることができないタチなのかもしれませんけど(笑)。

    2010/03/27 07:52

    アキラさん、こんにちは。
    また、アキラさんのレビューを拝読し、なるほどと納得が行きました。
    そうなんですね。
    だから、私も、無意識に、まず役者さんを絶賛し、照明や、音響等を効果的と書き、最後の最後に、作劇に触れたのだなと気付きました。
    私も、アキラさんがご指摘された部分に、何となく引っかかりがあった事に、ご感想を読んで、気付かされました。お陰様で、腑に落ちました。
    ありがとうございました。

    2010/03/26 21:36

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