遠ざかるネバーランド 公演情報 空想組曲「遠ざかるネバーランド」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    逆説的ネバーランド
    ピーター・パンの物語をどう描くのだろうという興味で観に行った。想像していたのとは違っていたが、なかなか面白い芝居だった。
    全体に観客満足度が高いようで、みなさんのレビューに言い尽くされている感じで、楽しく読ませていただいたせいか、自身は書きあぐねてしまった。
    ほさかようは、深層心理的な世界を描くことが好きらしく、巧みである。私が若手の劇作家の力量をはかる基準のひとつとして、もし、これをメジャーな俳優の配役で、中央の劇場で上演したとしたらどうだろう、お金をとれるだろうかというのがある。その点で、ほさかようは期待できるひとりだと思う。作家としての個性はまったく違うが、20代のころの坂手洋二に将来性を感じたときと似た感覚を持った。

    ネタバレBOX

    「一緒に空を飛ぼうよ!」とピーター・パンは子供たちを誘う。ひところ盛んに言われた「ピーター・パン症候群」は大人になりたくないというモラトリアム現象だが、この劇のピーター・パンの「飛ぶ」も現実逃避ではあるが、大人にならないことというよりもっと深刻な、文字通り、死のダイブを意味しているらしい。終盤登場人物がそれぞれ「いずみ」を名乗って、ネバーランドは実は主人公の少女の心の中の世界であることがわかる。ともあれ、役者がみな適役で、ピーターの中村崇、小玉久仁子のタイガー・リリーなど、いかにも見た目それらしい雰囲気が出ている。小玉久仁子は「時間のムダ!ムダ!」と前回のホチキス公演の役のアテ書きの様な台詞も出てくる(笑)。作・演出家の中には脚本至上主義で「役のアテ書きは邪道」と言い切り、さほど俳優に関心を持たない人もいるが、ほさかようは日ごろからいろんな芝居での俳優さんをよく観ているのでは、と思った。これは人によって好き好きだと思うが、私は俳優の個性に関心を持つ作・演出家のほうが芝居も面白くなると思っている。
    トゥートルズの二瓶拓也が「夕ご飯のハンバーグが冷めないうちに食べなさいと言ってくれることが本当のやさしさ」と訴えるところは胸が詰まった。彼は、本当に童話から抜け出したようにあどけない(笑)。台詞を言うとき、いちいちマイクを使って囁くフック船長(中田顕史郎)がおかしい(笑)。ルフィオの石黒圭一郎(ゲキバカ)など、最初のほうに倒されてしまうので、出番が少なく、もったいない気もした。少年(斎藤陽介)が最初、出てきたときはただのひねくれものかと思ったが(笑)、終盤に向けて徐々に正体をみせていく描き方も巧い。ビスカ役の横田有加は、まことに人魚らしく美しい。海賊フォガーテの尾崎宇内はアングラ芝居のときとまったく違う印象で面白いなーと思って観ていた。私がアングラ芝居で観ている俳優はなぜか、近頃、違う役どころで良さを発揮しているような気がする。若いうちからいつも同じような役どころを演じてイメージが固まってしまうよりも、機会があれば、いろんな劇団に客演していろんな役に挑戦して引き出しを増やしてほしいと思っている。実力のある俳優に対してはなおさらそう思う。
    ウェンディの清水那保はCoRichでも人気があり、前から観てみたいと思っていた女優だが、台詞を言うときに首が常に前に出る姿勢の悪さが気になった。時折こういう女優を見かけるが、癖なら早く直したほうがよいと思う。母親(武藤晃子)が冒頭、絵本を読み聞かせることや、妖精のティンカーベル(これも武藤晃子)がやけにオバさんくさい理由も、だんだんわかっていく。だが、ティンカーベルは、ネタバレせずに妖精の間はもう少し妖精らしく振舞ってもよかった気もする(笑)。
    主役の西内裕美の降板で脚本を一部書き直さねばならなかったようだが、それでもこれだけに仕上げたのは見事。機会があれば、本来のストーリーで再演してほしい。ズバリ書割そのもののようなセットがラストに大道具転換されるのもよく考えられていると思った。ラストで学園物になっていたのが、ちょっとガッカリしたが、これは私の個人的な好みの問題なのであしからず(笑)。
    私が子供のころ、民放TVで「ディズニー・ワールド」とかいう番組があり、あるとき、ディズニー・アニメにより「人間の感情と理性」を説明的に描いた作品が放送されたことがある。「感情のカンちゃん」と「理性のりーちゃん」という子供の姿をした2つのキャラクターが人間の頭の中に棲んでおり、頭の中の自動車のハンドルをめぐってしじゅう主導権争いをしている。男性には男の子、女性には女の子の姿をしたカンちゃんとリーちゃんが棲んでいるという、子供にもわかりやすい設定に大いに感心したものだ。今回の公演を観て、そのアニメのことを思い出した。どこか共通点を感じる。
    ろばの葉文庫でセット券を購入し、カラーコピーを使った美しいチケットだったが、今回受付で回収されてしまい、手元に残らなかったのが残念。予約リストにチェックを入れるだけではダメなのか。釈然としない。

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    2010/03/23 14:01

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