満足度★★★★
木下恵介の「惜春鳥」を思わせる作品
もともと、暴力場面が多い芝居は苦手で、しかも、前作を観ていないので人間関係がよくわからない点もあったが、引き込まれ、胸を深くえぐられた。
正装し、ご馳走を並べたテーブルにつく出演俳優たちを撮影したフライヤー。一見、公演の記念写真のようだが、この物語の登場人物たちにはまったく無縁の世界なのだということが芝居を観るとわかる。逆説だけにいっそう切なくなった。
この芝居を観た直後に、名匠木下恵介の「惜春鳥」を観る機会があり、時代状況も人物設定もまったく異なる作品だが、非常に酷似したものを感じた。
「惜春鳥」は会津を舞台に幼馴染の同級生の友情と裏切り、挫折を描いた作品。この映画の中で主人公の青年が悟るのは「立場が違えば心情的に理解できる部分もあるけれど、自分は自分の生き方しかできない」ということ。木下作品は救いようのない人間関係や貧困の泥沼の中で懸命に生きる人間を描いて感動を呼ぶ。蓬莱竜太のこの作品もまた、現代の「惜春鳥」だと思った。