実演鑑賞
満足度★★★★
横山拓也の十年以上も前の若書きの短編二篇をフィルムのタイトルでつないで続けて見せる。70分。
今冬最も寒いと予告されている夜の70ほどの客席は初日から満席、ツボを押さえた横山脚本に寺十吾の演出で、客席は暖かい笑いが続く。映像タイトルで横山の旧作が逆時代順に流れていき、最初のエピソードは「夜のオシノビ」。初期の作品である。
同棲していた女が死んで命日に年忌をすると決めている残された男(寺十吾)の年忌の当日。九年もたてば、来客も少なく女友達(金子さやか)と男の二人だけ。もう来年はできないかも、でも十年だから動員をかけるという女を、思わず男は押し倒してしまう。決然と去る女。で、翌年、誰も来ない十年目の年忌に死んだ女の仕事の付き合いがあったという男(浜谷康幸)が訪ねてくる。この男は実は死んだ女と不倫の関係があったというのだ。詫びに来たという男に、10年もたって、それが何の意味がある?となじる男。間男来訪の行為をめぐっての男同士のやり取りはとても新人とは思えない面白さだ。不倫男が扱っていた商品が売れない生理用品で、それが、今なお棚に残っていて、男は雑な女だったからと思っている、不倫男は思い出のために残っていたと感動する、などという小道具の使い方も、下ネタの使い方も舌を巻くうまさだ。定番の通夜の客ものの設定を年忌に伸ばしている。
後半は「いごっそう」。高知を舞台にした僻村の嫁不足を素材にしたコメディである。いごっそうというのは高知方言で、強情っぱり、というような意味だが、高知のいごっそうは度を超す。時にはそうならざるを得ないことも強情のせいにしてしまう。
嫁の来てがなく40歳前後になった三人の独身者のあこがれは飲み屋・いごっそうの主人(青山勝)を助けてバイトをしているかなえちゃん(青山祥子)。皆それぞれに事情がある上に、町役場で地域振興のために東京でリクルートした職員(泉知東)が単身赴任していて、恒例の村を挙げてのクリスマスパーティの相談をこの飲み屋でやろうと集まった。(この設定うまい)話はややこしくなる。話は登場人物全員をうまく使って進んでいく。全員芝居場があるのでやっていても楽しいだろう。舞台が初日から弾んでいる。観客も乗せられる。
この初期の短編に作には、その後の長編作に生かされているところも多く、めったに上演されないだろうから大いに楽しんでみられた。
寺十吾の演出・出演。この演出家、小劇場つまずきの石の出身だが、今は小劇場から中劇場まで、何でもそつなくこなす。一頃の鈴木勝秀みたいな位置だが、カラーはずいぶん違う。
こういうところにも時代は顔を出す。