無人船 公演情報 劇団 枕返し「無人船」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    シンプルな舞台美術だが、物語は迷宮・幻想を思わせるような内容である。その世界観が何なのかが 公演の肝であろう。この船は何処にいるのか、そして動いているのか否か。冒頭、舳先にどこともなく現れた人魚が座り、歌声を披露する。その美しさに誘われる様に次々と現れる人々、さらには妖怪までも…。
    人魚は精霊・妖精なのか、それとも怪物・妖怪なのか。ここは、人魚伝説にある美しい歌声を聴いた船乗り・航海者は舵を取ることを忘れ船が事故に遭ったり、海中へ引きずり込まれたり、廃人同然の状態と化して人魚の住まう島に赴いて歌を聞き続ける、を連想した先にある難破船のようだ。

    タイトル「無人船」…或る思いが募ると船が現れるが、その思いがなければ迷い込むこともない。しかし、人は思いを封じ込めておくことは出来ない。それこそが心の迷いであり、悩み苦しむ姿をした船のようだ。だから人が現れたり消えたりするという不思議な世界が出現する。

    さて、当日パンフに主宰の喜三太拓也 氏が「未だ収まらぬパンデミックに、吹けば飛ぶような枕返しは大きく翻弄されています。不規則な波、まだ見えぬ光、そして軋む船体」とあり、船に重ねて苦悩の状況を記している。が、それでも「命を懸けた悪ふざけを体感して」とある。その自信と熱意が十分伝わる公演である。
    (上演時間1時間25分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    船体の左舷、その奥に平台がいくつか重ねられているだけ。船名は「深水丸」。
    人魚の歌に誘われる様にヒロインの深海藍子が、幼い頃の朧げな記憶を手繰り寄せる。誰もいないと思っていた船に次々と人や妖怪が現れる。警察官の種田、その部下の篠崎、種田の不倫相手・はらみ、帽子の子供、おさげの子供、妖怪の河童やアマビエ、何故この船に集まてくるのか。

    自分の素直な思いを伝えられない、その逡巡する気持が心の迷いになっている。その思いが重くなると無人船に迷い込む。逆に、思いを伝えることが出来れば、その成否は別にして現世に戻れる。それまでの気づきの過程を面白可笑しく描いた、一種の成長譚のようだ。
    そして伝える相手は、親子であり、恋人といった身近な人。傍にいるのが当たり前と思っているが、実は本音をぶつけなければ分かり合えない。それを妖怪(河童)と子供たちの相撲というウィットある表現で描く。

    もう一つの謎、藍子はどうしてこの船にいるのか、そして船の持ち主である父の存在、さらには藍子の幼馴染で漁師見習いの小森との関わりは…。こちらはサスペンス ミステリーといった描き方で、先のラビリンス的な描きと交錯させ関心を惹かせる巧さ。家族ゆえの愛憎、それを覗き見た小森の悲哀。こちらは気持の清算といった心の在り様が問われる。個々の話は面白いが、全体を貫く太いテーマのようなもの、芯が暈けているのが残念だ。

    舞台技術、特に上演前のさざ波、ラストの波濤といった船に因んだ音響が効果的だ。手作り感ある舞台美術と相まって ぬくもりのある雰囲気がとても良い。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2023/01/18 05:44

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