ほおずきの家 公演情報 HOTSKY「ほおずきの家」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    前回HOtSKYの初観劇「ミカンの花の咲く頃」が、狭い劇場を物とせず(実際役者はひしめき、「はけ」の処理も相当無理をしていた)、感動のドラマであった。今回は打って変わって広い座・高円寺。このギャップも物とせず過不足ない舞台になっていた。
    全体図の中で些か入って来ない部分もあったがトータルで良い舞台。役者の使い方、美術、演出面で時折骨っぽさを覗かせたが、今更にスタッフ陣を見れば、演出横内謙介(そうだったっけ)、そして美術に加藤ちか(久々だ)。

    在日差別が一つのフックになっており、やや心配が過ぎったが(これ説明すると長くなるので割愛)、心配した方へ流れず、ある家族の物語として成立していた。(かつて「GO!」を書いた金城一紀はその冒頭でこれはあくまで恋愛についての物語だ、と書いた。)

    役者・・店のママである母みょんふぁが、最初(似てるけど)みょんふぁに見えず、芯を持つ役柄を演じ切る。娘役の七味まゆみも彼女「らしさ」を封印し、寡黙な演技が光った(後半、母が娘を呼びとめ、今この町を訪ねて来ている夫の昔の映画仲間を招き、二人に夫が残したノートを見せる場面では「父」という存在が彼女を満たして行くのを一言も発さず演じていた)。
    店でバイトするベトナム人留学生マイ役をやった扉座女優、その婚約者役で終盤登場する男と、その妹役が、「本物か」と思わせる風情。終盤を盛り立てる。序盤から登場するマイ役は訛りの強い日本語にベトナム語が混じったり英語が混じったり、何を言ってるのかは聞き取れないが「話者の真意」を要所で伝え、観客はちょうどそういう人を相手にしている日本人の体で参加させられる。「作り物」の(意図的で偽善に見えかねない)気配を、このリアルさが撥ね飛ばしている。

    舞台上は中央にデンと店があり(上手側にカウンター、中央にテーブル、下手に販売店冷蔵庫、袖にトイレ)、店をはさむ上手側と下手側の高みは戸外を表わし、客席側に広がる海を眺め下す場所。下手には浜辺に下りる階段があり、上手は岩場になっていてよじ登る形。
    冒頭から暫くは、この両サイドに若き日のみょんふぁの夫が死者として登場する。高みを超えた向こうに「知らない世界」への奥行を感じさせる。
    だがここへ「現実の時間」が、中盤まず下手の高みで日傘をさして海を眺める娘(七味)の姿を置き、次に終盤、浜辺へ弔いの祭壇をやっこらと運ぶ、センチの欠片もない店の常連二人を見せる(墓を訪ねて来た昔の映画仲間に、みょんふぁが後になって「骨は彼の母と共にその海に撒いた」と言い、二十数年ぶりに盆の祭事を行なうらしい様子が芝居の終幕へ向かう雰囲気を作る)。
    ここへやって来た二人の一方は太っちょキャラのタクシー運転手(友部康志)、これがもたらす笑いがギリ周囲の反応の内に収まる(店の常連たちの人間模様のリアリティが「受け皿」となる)。
    もう一人は、七味に以前告白したという痩せぎすの男(犬飼淳治)。彼の素朴な一庶民の役柄が、この海辺の場面で一挙に前へ出る。十年前に振られた話をして、友部の全面的な応援を受けるといった微笑ましい場面から、おっかなびっくりな十年振りの再告白というおまけが付く。
    留学生マイに惚れていたバイト青年が、そのマイに「相談」を受けていたもう一人の青年共々、最後に望み断たれる結末と言い、恋愛沙汰もドラマには欠かせぬ。

    昔の映画仲間だったという男は、影の主人公である七味の父と現在(母と娘の)をつなぐ役ではあるのだが、過去についての言及にこの男がもう一つ噛む事で過去の像は陰影が増したのでは・・と思わなくなかった。
    今年の初観劇。まずまずである。

    ネタバレBOX

    全く関係ないが、締切直前でPC不調のため登録しそこねた「アワード2022」を、この場を借りて。
    (自分の投票の有無が趨勢に影響しなかったのが救い)

    1位 ホリプロ「HANA ー1970、コザが燃えた日ー」
    2位 オペラシアターこんにゃく座「あん」
    3位 世田谷パブリックシアター「建築家とアッシリア皇帝」
    4位 シヅマ「最後の炎」
    5位 MyrtleArts「ひとつオノレのツルハシで」
    6位 KAAT「ライカムで待っとく」
    7位 劇団桟敷童子「夏至の侍」
    8位 イキウメ「天の敵」
    9位 水族館劇場「出雲阿国航海記」
    10位 ProjectNyx「青ひげ公の城」

    実際には、順位に響きそうな庭劇団ペニノ「笑顔の砦」を入選し、「青ひげ」を外していたが、殆ど順位をつけがたい同列の10位(否、10位というのも不本意)が横並び。芝居に順位など本来付けられない。
    なので列挙すると・・ドガドガプラス「金色夜叉・改」、虚構の劇団「日本人のへそ」、ハツビロコウ「かもめ」、二兎社「歌わせたい男たち」、青年劇場「豚と真珠湾 ー幻の八重山共和国ー」、城山羊の会「温暖化の夜」、アトリエ・センターフォワード「三人姉妹~愛と幻想と、残酷な時間~」が、最後まで捨てがたかった舞台。
    次いで、シヅマ「4.48」、世田谷パブリック「毛皮のヴィーナス」、TRASHMASTERS「出鱈目」、昴「ラビットホール」、KAAT「ラビット・ホール」、KAAT「夜の女たち」、ほりぶん「かたとき」「一度しか」、烏丸ストロークロック×五色劇場「新平和」、オフィスコットーネ「サヨナフ」、舞踊ではCo.山田うん「In C」。

    次々点と呼ぶもおこがましいが、
    若葉町WHARF「風のセールスマン」、新宿梁山泊「下谷万年町物語」、玉田企画「夏の砂の上」、さんらん「ポンペイ」、こまつ座「頭痛肩こり樋口一葉」、燐光群「ブレスレス」、ハルベリーオフィス「小林秀雄先生、来る」、ハツビロコウ「民衆の敵」、理性的な恋人たち「オロイカソング」、新国立の「私の一ヶ月」、「夜明けの寄り鯨」、円「ソハ、福ノ倚ルトコロ」、オフィス3○○「私の恋人」「ぼくらが非情の大河をくだる時」、趣向「パンとバラで退屈を飾って、わたしが明日を生きることを耐える。」、青年劇場「裸の町」、オフィス再生「正義の人びと」、うずめ劇場「ひとりでできるもん!」、ドナルカ・パッカーン「オッペケペ」、新国立「ロビーヒーロー」、「貴婦人の来訪」、Mrs fictions「花柄八景」、くじら企画「サラサーテの盤」、サファリ・P「透き間」、トリコ・A「へそで、嗅ぐ」、若葉町WHARF「甘い傷」、モダンスイマーズ「だからビリーは東京で」。
    ミュージカルでは桐朋学園卒業公演「RENT」、初めて観た四季「ロボット・イン・ザ・ガーデン」。
    異色ながら、モダンスイマーズの人形劇アフレコ「しがらみ紋次郎~恋する荒野路編~」も面白かったなあ。

    配信でGood!だったのは「世界は笑う」、「ハイゼンベルク」、「カレル・チャペック~水の足音~」。

    この年も「観ておきたかった」舞台の見逃し多し。
    ブス会「The VOICE」、さんらん「ゴン太のクリスマス」、小松台東「左手と右手」、名取事務所の別役実作品3作上演、serial number「ひみつせん」、オパンポン創造社「贅沢と幸福」、赤堀雅秋「ケダモノ」、Pカンパニー「5月35日」、欲をかけば行けたのに、と後ろ髪、CEDAR「わが友ヒットラー」、Aga-risk「SHINE SHOW」。

    捨てるの苦手な性格という事だけが良く判る総括。年間通しての印象は特にないが、若干、不本意率は上がったか。
    社会や政治はヤバイ領域に踏み込みつつある。演劇にどう影響していくのか、見守るしかない。

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    2023/01/16 14:58

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