喫茶久瀬 公演情報 文月堂「喫茶久瀬」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    もっと大きな劇場で観てみたい、歌あり踊りありの家族ドラマ
     年季の入った小さな喫茶店を舞台に大勢の登場人物が派手に動き回る、笑いあり涙あり、歌あり踊りありの人間ドラマでした。一見平凡そうな日常会話に13人もの登場人物の背景や、後からつながる伏線がしっかりと書き込まれており、ベタだけど思わず微笑んでしまう温かいエピソードもたくさん盛り込まれていました。決して幸福だとは言い切れない状況にいる、さまざまな夫婦、家族のカタチが示され、軽快な人情喜劇に終わらない深い味わいがありました。

     文脈の通った戯曲を感情熱い目の演技でにぎやかに見せていくお芝居ですが、舞台に誰もいない無言の間(ま)も大切に演出されていました。ただ、そうやって成功している場面があるがゆえに、舞台からの出はけや移動の必然性などの細かい齟齬が気になったりも。
     また、大勢の登場人物およびそこに生まれる関係性を、2時間におさめるのはもったいない気がしました。内容も規模もスケールアップさせての再演が期待できる戯曲だと思います。
     
     役者さんの中では、自分の仕事もしながら母が残した喫茶店を切り盛りする息子役の川本裕之さんが良かったです。バンドマン(安東桂吾)の出戻りの妹を演じた眞賀里知乃さんも印象に残りました。

    ネタバレBOX

     登場人物に起こった不幸について、とても細かく書き込まれています。キャバクラ嬢(村上寿子)を騙していた音楽事務所の男(凪沢渋次)が会社をクビになり、妻と子供にも逃げられて「今はゲラゲラ(漫画喫茶)に住んでる」などは、冷静に考えると絶対に笑えない状況です。それを笑いとばせる大らかな空気作りに、センスがあると思います。

     詐欺師の2人組(田中完&植木まなぶ)がやくざに殺されそうになった時に「アメージング・グレース」を歌って命拾いしたエピソードは、ちょっと無理があるんじゃないか(笑)とも思いましたが、そんな無茶な展開だって信じたくなる明るさ、強さがありました。

     ぽっちゃり体系だけどモデルになると決めているアルバイター(神馬ゆかり)、バンド“起死回生”をやっぱり続けてしまう40歳のバンドマン(安東桂吾&日高啓介)、30年の放浪から帰って来て「まだまだこれからだ!」と熱く語る父親(辻親八)・・・その未来は必ずしも明るいわけではないのですが、前を向いて自分を鼓舞する姿には輝きがあります。人間はどんな状況にあっても、未来への希望があれば生きていけるのではないか。それを愚直に信じ求める姿勢が伝わって来て、「あぁ、いいお芝居だな」と思いました。

     ラストは父と息子が祭りの出し物としてブルースブラザーズのダンスを踊ります。出演者全員がその踊りに加わって終幕。みんなでいきなり踊る大団円に私は少々引いてしまったのですが、大衆向け喜劇の王道だと考えれば見事な締めだったと思います。やっぱり新橋演舞場のような大きな劇場で、派手な演出で観てみたい。

     無人・無言場面で強く印象に残ったのは、クリスマスパーティーが終わった後、花瓶の造花だけにスポットがあたるところ。亡くなった母親がそこにいるように感じました。
     そういえばこれも最初の伏線(母の最期の言葉は「あの花に水をやって」だった)があったからわかることなんですよね。よく練られた脚本だと思います。

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    2010/03/07 21:36

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