荒人神 -Arabitokami- 公演情報 壱劇屋「荒人神 -Arabitokami-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    「人」の物語とはまさに。
    「人」を「人」で描いていて、「人」のために作られている。
    物語的にも演劇的にもそうで、本当に好きな作品。

    今までの4作を思い起こさせる形や表現、人物の関係・状況を少しずつ出してきて、そのうえで主人公たちまで呼び寄せてオマケどころかストーリーの芯にしっかり絡ませる集大成としての壮大さはもちろん素晴らしいが、何より、「荒人神」としての、人の醜さややさしさ、その人が作り上げる世界に対する絶望や希望に関する物語が分厚く存在していて、しっかりと描かれている上で、その集大成・お祭り的要素が無駄ではなくそこに絡んでいることが本当に素晴らしいと思う。
    憫笑姫・賊義賊・心踏音・戰御史を観てしまっているため、荒人神だけを観た人の本当の感想や感情はわからないが、4作を観ていなくても置いてけぼりになることはないのではないかと思う。
    荒人神は、荒・元・白の、悩み、それでも前を向き歩いていく物語である、と言える。

    キャスト的サプライズ面については個人的には「ここまでの4作、もしくはそのうちのどれか、作品を愛してくれている客」を信頼してくれていると感じられる。
    あの主人公たちが本当に墨絵から飛び出してきたかのような姿で出てきたときは大興奮したし、それぞれのストーリーや殺陣をなぞりながら、荒の絶望や苦悩を一つずつ晴らしていくように剣を交えるところは、こういう時こそ「尊い」という言葉を使いたいなと思う光景で、
    特に憫笑姫の主人公、ミラのシーンが一番好きで、再び相まみえることが出来たというようなほほえみが胸に刺さるし、白い衣装も相まって神々しさすら感じられ、それでも胸をドンドンとたたいて鼓舞するミラ姉さまはあの必死に駆けていたミラ姉さまで、いろんな感情が渦巻いていっぱいいっぱいになってしまう。

    あと、個人的に元が目指す姿は賊義賊の主人公の姿に似ているなと思っているので、血しぶき演出が荒人神で再び出てきたことにぞくっとした。
    荒人神も、「やむを得ず」命を絶つ、ことを改めて考える作品だと思うので、賊義賊の感想に書いた通り、効く。
    更に今回は色変化もあり、工夫や趣向を凝らすこと(さらにそのクオリティを落さないこと)を止めない団体だな…ということも思う。
    今回も美しい飛び・舞い・散り、を堪能。
    迷いながら振るわれる剣の切っ先から飛ぶ血ごしに見るその表情、呆然とする元の頭上に降る血、闇が吹き飛ばされていくように散る黒、偶然か体に張り付いたそれが返り血や傷のように見える瞬間…どれも演劇でしか味わえない解釈のあるうつくしさで印象に残っている。

    皮肉だが、圧倒的な強さはフィクションとしてはとても格好いいので、黒い”何か”の手を取り、闇に心を染めて世界を蹂躙する荒の姿はとても魅力的で、恐ろしさとともに快感を感じるシーンでもあった。
    苦悩していた荒とは違い、表情もころころと変わり、ただただ好きなもの以外はどうでもよい様子は幼子のようにも見えて、少し悲しくもあり。
    竹村さんの芝居は豊かだなと思う。4作連続で出ているが、どれも性格、年齢までも違うように感じられ、荒人神ひと作品の中でもこんなにも色とりどりに変化する。
    その芝居が殺陣にも乗っていて、武器による変化だけではなく、心情や状況によって、切っ先から感じられるものが全く違う。迷い、殺意、決意、etc…
    作・演出としての竹村さんももちろん好きだが、役者:竹村晋太朗、好きだな。と改めて思う。

    また、竹村さんと同じく、個人としては違うが5作品に共通して存在する「アクションモブ」の存在について改めて度肝を抜かれている。
    「モブ」にふさわしく群衆として世界になじみつつ、時にキーとなる存在となり、瞬時にいわゆる「人間CG」を担い現象としての存在に推移する。
    「モブ」とは名ばかりの、この人たちがいないと世界が成り立たない骨子としての存在と技術、劇団員も含まれているとはいえ、ひと月ごと、1回1回の座組であそこまでの完成度の仕事をしているのが本当にすごいと思う。
    アクションモブが居なければ、あらゆる魅力的なシーンは成り立たない。
    観ているその時その最中はそこに意識を割かれ過ぎないように目立ちすぎず、でも印象を残しつつ、の職人たち。
    しっかり名前を憶えてしまった。素晴らしかった。


    興行としても、独立連作の集大成としても、単独の一つの公演としても、素晴らしい作品だと思う。

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    2023/01/06 11:07

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