実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/06/25 (土) 18:00
劇場に入ると、明るく照らされた舞台は素舞台という以上にむき出しで、舞台の向こうにある搬入口まで見通すことができた。
劇場の向こう側のコンクリートの壁や機構を照らす蛍光灯の白さを遠目に観ながら、これから始まる物語に思いを馳せた。
……まだ明るい客席通路をひとりの人物が歩いていく。
そのまま舞台に上がり、倒れ込むように床に耳を押し付けた。それがミズヲだった。
観られなかった昨年の上演では、ミズヲとオズを同じ役者さんが演じたそうだ。同様にヒメ女とタマキも一人二役だったらしい。
そちらも観てみたかったな、と思った。というのは、狂王と考古学者が一人二役なのを観て、他のキャストはなぜそうしなかったのか、と思ったからだ。
2つの時代を同じキャストが演じることで見えてくるモノもあるだろう。一方で変わってしまう部分もあるかもしれない。
2つの時代のうちのひとつは、上記のあらすじに「太平洋戦争開戦前夜の長崎」と記されているけれど、正直言って終盤までそれに気が付かなかった。服装も交わされる会話の中の固有名詞なども具体的にその時代を示すものはないよう描かれていたからだ。もしかすると意図的なミスリードではないか、とも思ったけれど、あらすじに明記されているのだからそれは考え過ぎなのだろう。
その時代なのだ、と気づいたのはパタパタとさまざまなピースが繋がっていくときだった。
古代の王国と太平洋戦争開戦前夜の長崎が、そしてミズヲの記憶と彼の名前の意味をはじめとするたくさんのモチーフが、それぞれにつながり怒涛の勢いで感情を揺るがしていく。パンドラの鐘に隠された秘密。太陽。水を求める人々。
そんな中でのヒメ女の決断。それを見守るミズヲ。
今回が初舞台だという成田凌さんから、舞台女優の代名詞のような白石加代子さんまで、キャストは皆さんそれぞれ魅力的で、個性的な登場人物たちが皆愛しく感じされた。
演出や美術も印象的だった。
冒頭で空っぽだった舞台に立てられた4本の柱。周囲には紅白横縞の幕が張り巡らされる。
4本の柱のひとつに太い綱でつながれた釣鐘はそのまま能の『道成寺』を思わせた。小鼓の響きも劇中で聴こえていた。他にも随所で和物のニュアンスが加わって、無国籍な古代王国の印象をこの国に繋ぎ止めていた。
ラストで、舞台の向こうの搬入口が開かれ、現実の現在の渋谷が見えた。
劇中で問われた何かが、現実の街に重なる。
ふと蜷川幸雄さんの演出を思った。そういえば、この公演はNINAGAWA MEMORIALと銘打たれている。演出の杉原邦生さんが意図的に蜷川さんのテイストを取り入れていらしたのだろう。
この舞台を観ることができてよかった、とまた思った。