実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/06/11 (土) 18:00
細菌兵器などの研究が行われていた軍事研修施設で、タイピストとして働いていた少女が和文タイプの控えを持ち帰り保管していた、というのは実際にあったことらしい。
その事実をもとに、現代のジャーナリストの取材の様子と当時の出来事を絡めつつ描いたこの作品。
社会的な題材を丁寧に取材し、問題意識とエンターテイメント性を両立させる作風はいかにもserial numberらしいと感じた。
描かれている内容は重い。戦場ではなく研究所で行われていた「秘密戦」。人(や牛)を殺すための研究への罪悪感と科学者としての探究心の拮抗。
マキノノゾミさんの戯曲『東京原子核クラブ』にもそれに似た葛藤が描かれていたが、今作では人体実験にまで及ぶ「秘密戦」の壮絶さとそこに携わる人々の思いを描いていく。
ことに、主人公が科学者ではなく、女性であるが故に科学者を目指すこともできなかった和文タイピストの少女であり、彼女をめぐる人々の細やかな感情の機微が描かれていたのが面白かった。
研究者たちの葛藤に、陸軍中野学校からきた浦井の存在が緊張感を増す。
日本名を捨てて中国で暮らす科学者が当時の若手2人のうちどちらかであろうと思いつつ観ていたが、同時に取材する側の素性にも仕掛けがあり、またある歴史的な事件の起きるタイミングも重ねて描いて、物語にもうひとつ奥行きを加えていた。