実演鑑賞
満足度★★★★
傑作。高木登の本気を見た。出演者全員にとって代表作になるのでは。
夫婦の協議離婚、互いの弁護士同伴での話し合いから開幕。函波窓(かんなみまど)氏演ずる弁護士は三浦葵さん演ずるヒステリックな妻が依頼人。函南氏は松田龍平と松重豊を足したような非人間的な冷酷さ。三浦葵さんは常に目をひん剝いて威嚇している。
赤猫座ちこさん演ずる弁護士は橋本恵一郎氏演ずる、愛人を作った夫が依頼人。赤猫座さんは流石の美貌。橋本氏は常に神経質に爪を弄っていて、何本かの指にバンドエイドが巻かれている。この演技プランが秀逸。文句なしに第一場のMVP。
演出の小泉愛美理さんに「あなたのその音が絶対必要なので」と説得された、サウンドアーティスト・北島とわさんのSEが凄まじい。真夜中の沼からひたひたと水を滴らせながら上がってくる何か異形の物の音。巨大なアンプの重低音、ブツブツと走るノイズ。無意識に人を不安にさせる環境音。これらの使い方も絶妙。これと絞る照明だけで、後は役者の力に託される。無論役者陣は期待を遥かに超えた怪演で応えてみせた。ほんの些細な動き一つにもビクッとして圧倒される。
高木登は黒沢清系ではなく、岩井俊二系。岩井俊二の『undo』のように、マニアックな世界でも大衆に開かれている。見事な作品だった。
妻と別れて愛人と一緒になりたい夫と、夫を苦しめることだけを生き甲斐に決めた妻。全く進展しない協議離婚。キチガイのように喚き散らす妻、幼児のように駄々をこねる夫。二人の弁護士も苛立ち、殺気立ち、暴言を吐く。だが、この話には更に裏があり・・・。