老いた蛙は海を目指す 公演情報 劇団桟敷童子「老いた蛙は海を目指す」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    これだけの熱量の新作を描き下ろすサジキドウジ(東憲司)氏にリスペクト。まさに桟敷童子版「どん底」、役者博覧会の様相。関東大震災後なので時代背景は昭和初期であろう。田舎の汚らしい掃き溜め長屋。水道が引けず、腐った雨水を貯めて飲んでいる。立ち込める悪臭、行き止まりの貧民窟。
    「乞食会社残飯屋」を率いる青山勝氏はまるで王様。上田吉二郎のような悪の魅力に振りかけたたっぷりの色気。『座頭市』の奥村雄大(鴈龍)のような妖気。体躯は先代二子山親方、大河内傳次郎のように見得を切る。好き放題にステージ上を我が物としてみせた。
    長屋の大家の女房役、藤吉久美子さんがまた凄い。ふてぶてしい魔性の色気、存在そのものが匂い立つ。
    酒で身を滅ぼした医師、佐藤誓氏はまさに“酔いどれ天使”。震える手。
    「どん底」の巡礼ルカにあたる、迷い老婆は鈴木めぐみさん。まるで何かを見通したかのような含蓄のある言葉。掃き溜めの暮らしに魔法の粉を振り掛けてみせる。
    知的障害児の吉田知生氏は老婆の言葉、「お前にも行ける学校がある」の言葉に希望を抱き、ここではないどこかを夢想し続ける。
    もりちえさんの乞食キャラも新鮮。

    劇場中には「死を間近にした者にしか見えない」白い花が無数に咲き誇る。今、新作でこれを演れる劇団の生命力の若さ。ゴーリキー、「どん底」をこんなふうに換骨奪胎し甦らせる腕は流石。
    新感覚の「どん底」、是非観に行って頂きたい。

    ネタバレBOX

    工場の労働争議を煽動した容疑で手配され、逃げ込んできた三人組の活動家。一人(稲葉能敬氏)は脚を折り切断寸前の大怪我。一人(三村晃弘氏)は大家の妻に言い寄られる。(黒澤明版の三船敏郎が演った役が魅力的なのだが、今作の役どころでは主体性がなく、イマイチ盛り上がりに欠ける)。板垣桃子さんは持病の若年性認知症が悪化、子供返りを起こす。(彼女の十八番、寄り目で口元を歪ませる表現の多用)。

    水道を引くことによって全てが変わる“希望”のイメージ。そこを強調する為、臭いと病が蔓延している強烈な描写が欲しかった。

    ゴーリキーと違う最大の特徴は、諦念に満ちてなく、逆に希望に溢れているところ。悲惨な結末が続くのだが、何故かそれも悪くないような心持ちに。白い花が咲き乱れる様が祝福にも感じる。ラストの晴れ晴れとした解放感。黒澤明なら「どですかでん」っぽい。

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    2022/12/16 14:26

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