人魚姫の庭 公演情報 マルチリンガル演劇実行委員会「人魚姫の庭」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     ファンタジーで現実を抉った傑作、華5つ☆。 デンマークにある人魚姫の像は余りにも有名だが、人魚に纏わる様々な伝説やファンタジーの類は、その幻想性が極めて魅力的でイメジャリ―な点、舞台でどう表現するか? 相当に難しいのではないか? そう案じていたのだが杞憂に終わった。今回は1回切のプレ公演として演じられた舞台だったが、本公演は2023.2月25日(土)13時30~21時15分及び26日(日)10時~18時30分にプレ公演と同じあうるすぽっとで上演される。1日券は前売り3000円、2日券は4000円で当日券は各々500円増しである、予約開始は2023年1月中旬からを予定しているとのことだ。

    ネタバレBOX


     脚本は劇作家の醒めた意識が光る。今作に登場する人魚の寿命は300年。大人になると人間の世界を見学に行く許可が下りる。姫たちの生活は穏やかで平和だから退屈でもある。長い寿命が退屈に満たされるのでは堪らない。而も姫たちは寿命を迎えると泡となって消えてしまうのだ。この空しい宿命は、生きていることの輝きを奪わぬばかりである。そんな姫たちの最も楽しい遊びはヒトの魂を集めることである。当初遭難等で死んだ魂を集めて、その光輝く永遠の魂を宝物として保持していたのだが、或る時から積極的に集めるようになった。その方法は観てのお楽しみである。数多い姫たちのうち1番多くこの宝物を持っているのは長女であった。彼女以下末娘を除く他の姉妹たちは皆同じように楽しく宝を集め平和な時を送って寿命が来たら泡となって消える運命を肯んじていたが、末娘だけは人間になりたいという望みを持っていた。彼女は、この望みを叶える為に海の底深く潜り願いを成就できなかった者達が海の魔女と呼ぶ女性に遭い、契約を結ぶ。魔力で人魚姫は人間の姿にはなれるが、言葉を奪われ肉体は鱗を生き乍ら剥がされる痛みに常に晒される過酷な条件であった。然し人魚姫はそれらの苦悩を背負っても尚人間になる望みを捨てずにいた。その原因は先頃人間の世界を見た際、大国の王子を見初めたことにあった。姫は人間に姿を変えその王国に入ることに成功した、然し言葉も碌に喋れない。手話はできるが万人に通用する訳ではない。宮廷で王子に見初められるにはダンスを上手に踊り、王子の相手として誘われる必要もある。相手は大国の王子、競争相手の女性達は何れもこの大国には敵わないまでも何れも別の王国の王女やそれに匹敵する娘たちである。初めの頃こそ珍しがられ少し注目を集めはしたものの人間界に来て1年程度では言葉も完璧には程遠く、ダンスも上手とは言えない。王子との恋は実らぬ方へ誘われていった。大嵐の際、王子の乗った船が遭難し命懸けで王子を救ったのが人魚姫であったにも拘わらず、王子の妻の座は小国の王子の手引きでその姉の才長けた王女のものとなり、願いを成就できなかった人魚姫はその寿命を全うすることなく泡と消えた。センチメンタリズムを排し、プラグマティックでドライな世界を如実に活写し微塵も仮借の無い世界のリアルが担保されている点が素晴らしい。現実に世界で起こっていることの理由が端的に示されその残酷性が如実に物語られているからである。
     板上は木材をたくさん用いて段差のある足場を組み照明と音響効果を最大限に活かして煌びやかな衣装とスタイリッシュなダンスで物語を紡ぐと同時に物語の展開する舞台をその海中の幻想的な雰囲気迄紡いで魅せるレベルに達し実に美しい! まあ、内容が如何にシビアでも、否だからこそ、ダンスの動きは、その華麗で柔軟な衣装や美しい女優、実に美しく幻想的な照明と音響効果とでいやが上にも対比されてひしひしと観客の胸を撃つ。
     殆ど総ての時間をこのような視座で描いた今作もファンタジーであるから、終盤若干、人間になって心血を注いで王子を愛し、生皮を生きたまま剥がれる痛みに耐え、無視や愛されぬ絶望にも、言葉拙く愛の伝え方すら覚束ぬのみならず、社交界の常識である上流社会へ関与する為の必須条件であるダンスも上手く踊れない人魚姫の、遭難した王子を実際に命懸けで救った事実を肝心の王子に意識されることもなく、泡と消えた人魚姫を探索する話が挿入され、本当に関わりの深かった人間の関与も描かれはする。然しそれは更なる世界の残虐性を描く為であるように思われる。その残虐性とは、最後まで人魚姫に関わろうとした幸せな者が存在する時、必ず不幸せな者がその代わりに幸せ者の足下に踏みつけられ呻吟しているという事実である、即ち自分が幸せならば、必ずそれは他者の不幸せを代替物として持つという残虐性なのだ。

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    2022/12/14 10:27

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  • 伊藤さやか さま
     初めまして、ですね。少しでも励みになったなら自分としても嬉しい限りです。演出は、相当高い評価を与えられて良いかと思います。
     脚本に世界を突き放して観る視座があることを、どのように観客に届けるかで迷った所が在るのではないかと愚考しますが、元々有名なお伽噺や伝承には非情にリアルな視点が在ったというのが事実のようです。ただある時から大人の教育的配慮が働き現在人口に膾炙しているような物語が喧伝されるようになった、ということでしょう。憂うべきは現在のように大した知識も深い思索も想像力も当たり前の探求心も知恵さえない無い頭の無いムカデのような人々が、単純化され不正確になった情報を「根拠」にSNSで何かを言うと一定の力を持つことですが、放っておけば良いこと。表現する我々は、本質追及を諦めず人として世の中に関与し続けることこそ先ずは肝要かと存じます。今後ともよろしくお願いします。
                              ハンダラ 拝
                   

    2022/12/15 09:30

    ハンダラさん、おそらく「はじめまして」かと思います。
    「人魚姫の庭」の演出をいたしました伊藤です。

    私たちのような、まだまだ認知度の低い劇団にとって、クチコミはこれ以上ないくらい有難いものです。小さな劇団が育っていくのに必要な栄養剤を与えてくださり、ありがとうございます!

    2022/12/14 21:34

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