愛獣-改訂版- 全公演日程無事終了いたしました 公演情報 MissPRs「愛獣-改訂版- 全公演日程無事終了いたしました」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    もののけ!
    白いお面を付けた「かおなし」みたいな女が登場する。闇夜に瞬く獣のようだ。どうやらこの「かおなし獣」が物語の「愛獣」のようだ。しかしこの「愛獣」は一人という箪称ではない。それは心に潜む象徴なのだ。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    舞台はいつもの霧がかった怪しい世界。そこに「愛獣」が登場する。かつて獣でなかったころ、彼女は一人の男性を愛したのだった。しかし、男性が自分の元から去ってしまうと、愛に餓えた獣となって執拗に男性を追いかける。果てに「私以外を誰も見られないように目を、私以外誰も抱きしめられないように腕を、何処へも行けぬように足を切り落としてしまおう。」と呪いのような言葉を吐く。

    一方で女に裏切られた咲田は女を殺して自分も死のうと考えナイフをポケットに忍ばせる。その途中、ジョニーと会い、ジョニーは咲田の行動を察して、自分の過去の出来事を話し始める。

    そして、ジョニーの過去へと物語はトリップする。
    ジョニーが幼いころ父が他界してからずっと母子家庭で育っていたがママの満ちあふれた愛情のおかげでジョニーは幸せだった。「美しく優しく非の打ちどころがない完璧なママが俺には眩しすぎた。」と話し始めるジョニー。
    しかし、ジョニーの将来を考えたママが再婚した夫は暴力男だったのだ。ぶたれても「あなたのためなのよ。全てあなたのためなの。だって愛してるんですもの。あなたは私の全て・・。」とジョニーに言いながら耐えるママ。ママの愛を得られないことに心底苛立つ義父。ジョニーに対して特別な愛情を抱く義弟。これらの愛が重すぎたジョニーは盲目の愛が恐ろしくなって、逃げる。

    少年ジョニーとママとの情景を白い衣装をまとったバレエで魅せる。美しい風景だった。少年ジョニーと美しいママとの繊細なシーンだ。やがて・・・カルメンのような動のダンスに変わっていく。

    逃げたジョニーはなるべく人と深く関わらずに生きた。しかし、そんなジョニーにも明子という存在が深く関わってくる。明子はジョニーが油断しているうちにグングンとジョニーのアパートに押しかけ一緒に暮らすことになる。明子はジョニーの隙間にいつの間にか入り込んで、その隙間をせっせと均していく。この二人の生活風景がギャグなのだ。実に楽しい!コメディだ。

    やがて、ジョニーは「これ以上俺に入ってこないでくれ!」と叫んで明子の元からも逃げてしまう。母の愛に素直になれず、義弟・ケンとも向き合えず、明子からも逃げてしまう。
    そして、月日は流れて20年後、憶病で誰の気持ちも受け止められなかったジョニーはやっと明子のもとへ帰る決心をしたのだった。
    「あの人たちは美しいと思った。俺は愛されるのが恐かった。自分が傷つくことが恐かった。自分自身が愛獣になってしまうのが恐かったんだ。明子を愛するがゆえに醜くなるのが恐かったんだ。」と、ジョニー。


    この物語は一人の臆病な男が素直に愛情を受けられるになるまでを描いた本だ。不器用な少年が他者からの愛情を上手に受け止められないで、その愛情を重く感じてしまい、自分自身を外界から閉じてしまう。他人と接触する気のない閉じた気配を身にまといながらも、それでも温もりは欲しいと心底は思っている。この冷えた心を癒してくれたのが明子だ。ジョニーは天真爛漫の明子を想うだけで愛しさがあふれてくるのだと、20年もかけて気づくのだ。そして悟る。自分に必要なのは明子だと・・。
    序盤、登場する「愛獣」はジョニーの中の「愛獣」だ。普通の人よりも深く人を愛してしまうジョニーは、愛する人を失うのが恐いのだ。失った後の喪失感が恐いのだ。いつまでもジクジクと傷ついた傷は癒されず膿となって心を支配されるのが恐いのだ。

    素晴らしいと思った。ジョニー役の奥山は相変わらずちょっと病んだ屈折した男の演技が上手い。なんだろ?内からにじみ出るようなあのくすんだダークさは!(笑)  合間に入るダンスのシーンも素敵だった。そして何よりも、受け止める愛情の不器用さ加減が愛しいと思ったのだ。繊細な物語だ。



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    2010/02/09 17:09

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