サイレント・ブレス 公演情報 千夜一夜座「サイレント・ブレス」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    在宅医療、終末期医療を取り扱ったヒューマンドラマーー現代医学では治療見込みのない患者と向き合っている。原作は医師・南杏子女史の「サイレント・ブレス 看取りのカルテ」で、彼女の実体験であるから現場リアリティがあり、説得(納得)力もある。脚本・田中千寿江さん、演出・奥嶋広太さん。

    主人公は大学病院での勤務継続を望んでいたが、恩師であろう大学教授から これからは在宅医療の重要性を説かれ、都下のクリニックで働くことになった。そこで出会う患者、そして実父の看取りを経験することで、理屈ではなく実感として在宅医療の大切なことを知る という成長譚でもある。

    表層的には等身大の女医そして娘の姿は描かれていると思うが、心の奥底にある人間そして医師としてのリアルな不安や迷い、悲しみや情熱といった様々な思いが弱いように感じられた。どちらかと言えば、客観的に描き きれいにまとめたような印象を持った。
    (上演時間2時間10分 途中休憩10分)

    ネタバレBOX

    舞台美術 後景は暗幕、中央に大きな衝立、その左右にも少し小さい衝立が並ぶ。大きな衝立の前に横長テーブル、そして いくつかの椅子が置かれている。冒頭、上手の箱馬にはダイヤル式の黒電話、下手にはプッシュホン電話があり その固定電話が距離の遠さを表している。この衝立やテーブル等は場景に応じて舞台転換させ、舞台となる「むさし訪問クリニック」や「ケイズキッチン(食堂)」そして患者の自宅となる。

    物語は大きく3話から成る。冒頭は主人公・水戸倫子が大学病院から在宅医療専門のむさし訪問クリニックへ派遣されるところから始まる。大学病院では、認知症患者の場面を描いており、在宅医療もそのあたりを描くのかと思っていたが…。
    重い内容だが、ケイズキッチンの人々との交流やクリニックの事務員や看護師の明るい会話が救いとなっている。登場人物は情景に合わせて衣装替え(季節や時間の流れ)を行うなど細かい演出に好感が持てる。そして時々現れるネコ(人形)が、寂しさや哀愁を感じさせる、という心象効果もみせる〈登場させなければ、上演時間が短縮できるので、時間対効果を考えてほしい〉。

    1話目は、末期の乳がん患者・知守綾子。病院で助かる見込みのない治療を続けるよりは、自宅で自由気ままに生き、そして死にたいと望む女性の話。タバコを吸い見知らぬ男を自室に招き入れという、一見 自由奔放に振る舞う綾子に、倫子は戸惑う。一方 綾子は倫子の真摯な対応にだんだんと心を開いていく。綾子の会話で、死にゆく人の心理の変化「死の受容」が印象的に語られる。そのプロセス=第一段階(認否と孤立)、第二段階(怒り)、第三段階(取引)、第四段階(抑うつ)、第五段階(受容)が綾子の心境の変化であり、順々とした展開に倫子と関係性を見事に表す。

    2話目は、筋ジストロフィー症患者・天野保。若くて意思表示もしっかり出来る。行政やボランティアの支援を受けながら在宅医療を続けている。身体は不自由であるが、言葉は快活をよそおい気を遣う様子、その優しい性格が…。クリスマスの晩、大切な人と過ごすボランティアのため自発呼吸器が外れたことを知らせない。後日 保のブログで、その理由が明らかになる。暗幕が開きlineやブログ画面の映像を映す演出も効果的だ。そして自分の大切な人、その母が保を残して失踪するという切なさは涙を誘う。

    3話目は、倫子の父・水戸真一。母サキが面倒を見ていたが、倫子もクリニックを休み在宅医療のため帰郷していた。寝たきりの父とは意思疎通が出来ず、父の終末期医療の望みを聞くことが出来ない。実は、母は父が書いた「尊厳死宣言公正証書」を隠していた。そのことを知った倫子は母を責める。真一とは会話が出来ないが、そのため冒頭 父が歌う「北の宿から」をラストに流す。さて、倫子は父の遺志を無視した母を詰るが、妻のサキにしてみれば意識はなくとも体が温かいうちは…それが情(自分の経験から)というものかもしれない。

    看取りの患者のそれぞれに寄り添い、自分の父の尊厳死を受け入れるという”心の強さ”のようなものを感じる。それは職業柄というものかも知れないが、実父の場面では、もう少し娘としての観点で心のざわめきや葛藤を〈演劇では〉描いてほしかった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/22 20:50

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