実演鑑賞
満足度★★★★★
戯曲では読んでいたが、舞台は初見。素晴らしいの一言。笑いにくるんで教育現場への「国旗・国歌」押しつけを批判する。笑えて笑えて、その上で現実にこれが起きていると思うと悲しい芝居だった。最初、元シャンソン歌手のミチル(キムラ緑子)は服を洗濯中で、布団にくるまって出てくる。服が乾いて着替えると、方もあらわなシックなイブニングドレス。このドキドキさせる衣装効果は戯曲ではわからない。
「がちがちの左翼」(本人は軟弱左翼のつもり)の拝島(山中崇)が、校長(相島一之)と片桐(大窪人衛)に「歌ってくれ」「立ってくれ」「そうしないと、大変なことに」と問い詰められと、突然シャンソンをうたいだす。このずれ、はぐらかしが笑える。非条理な状況にピッタリの飛躍した抵抗だった。最初は「暗い日曜日」。そして「パダンパダン」。最後の「聞かせてよ愛の言葉を」も含めて、YouTubeで検索してしまった。
コンタクトをなくしたミチルが「職を失いたくない」と、拝島に眼鏡を貸してくれと迫る。不意を突いたり、無理やりとろうとしたり、切羽詰まっての実力行使が面白かった。そこまで追いつめられるということが悲しいのではあるが、それだけにおかしみがいや増した。
〈国家・国旗に起立斉唱しても、それが嫌だという気持ちは罰せられないし、持ち続けられるから「内心の自由」は守られている。行動で表すのは「外心」〉という論理は、一見もっともらしい。それもそのはず、最高裁の判決で言っているそうだ。国家・国旗押し付けの屁理屈もここまで来ていたか。有料パンフの資料によれば、最高裁ではこれに反対意見を付けた裁判官も一人いた。
舞台上の時計がきちんと動いていて、まさにリアルタイム演劇だ。8時5分前から始まって、10時の卒業式開始に向けて、1時間45分の芝居。黒板の日付は「二〇〇八年三月〇日」とある。初演が二〇〇五年、再演が二〇〇八年だった。今回、二〇二二年などにしなかったわけは、いまは反対派教師を式場外の雑用係にするなど(この舞台でも校長が拝島を駐車場係にしようとする)、事前に対策をとるなどして、状況が変わったからだそうだ。有料パンフの資料や対談、寄稿も充実していた。