お國と五平 公演情報 Nakayubi.「お國と五平」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    谷崎潤一郎 脚本で、演劇人コンクール2020優秀演出家賞受賞作、そして再演ということに興味をもった。言葉遣いこそ時代劇を思わせるが、その観せ方は現代劇風で、チャレンジングな演出をしている。
    舞台美術や衣装はシンプルで、物語の核のみを抽出し描こうとしている。それ故 余計な装飾的な要素は削ぎ落したかのようだ。フライヤーは暗い中で面を付けた二人、そして鎖で繋がれている。いや正確には別の意味合いを持たせているが、真に表したい肝は切っても切れない武家社会の制度や人の情愛を表現していると言えよう。

    登場人物は、わずか三人という緊密さ、そして仇討ちという緊迫状況下で繰り広げられる会話劇。濃密な会話、時に無言になり その隙間のような時間に、心の奥底に揺れ動く感情が透けて観えるようだ。
    (上演時間1時間)

    ネタバレBOX

    後景は暗幕、上手に黒いドラム缶と編笠。衣装は全員同じ黒っぽいツナギ服。始めは、一人の男(首に鎖が付いている)が四つん這いで現れ、ドラム缶の中へ身を隠す。続いて男が四つん這いで、女はその男の首に付けている鎖の一方を握っている。まるで犬の散歩のような光景である。女はお國(飯坂美鶴妃サン)、男は従者の五平(柊木樹サン)、そして先に登場したのが敵役である池田友之丞(杉田一起サン)である。三人はそれぞれ面を付けており、顔(表情)が見えない。舞台装置はなく、ほぼ素舞台であるから会話(言葉遣い含め)だけで感情表現を試みる。

    国許の広島を出て三年になる侍の後家・お國と従者・五平の旅途中。そこへ虚無僧の尺八(勿論 音響はない)、そして数日前も旅籠の外から聞こえていた。お國と五平は、敵の池田友之丞ではと疑ったが、顔は別人(黒塗りしていた)だった。友之丞は お國に恋するあまり、その亭主を闇討ちするほどだから後を追う可能性はあった。物語の前半は仇討ちの旅とその追跡談が中心。

    一転、後半は お國と五平の情事を隣の部屋で聞いたことが知れてからの話。時代を超えた男女という人間の物語。友之丞は人妻に想いを寄せたために死に、五平は人妻に想いを寄せた上にそれが忠義になるという皮肉さ。お國は、仇討ちを果たし五平を立派な侍にしたいと言い、死にたくないと言う友之丞を五平は斬る。友之丞はコト切れる前、五平に「一度はお国は自分に身を任せたのだ」と恨み言。面目なげにうなだれ泣くお國。五平は、済んだことは仕方ない、国へ帰って夫婦になろうと言う。二人、仇の首を斬り(黒バットを刀に見立てドラム缶を叩く という独創性)、南無阿弥陀仏と唱え…。

    谷崎潤一郎の小説は 耽美的な印象があり、男女のドロドロとした情愛が描かれている、そんな先入観があった。本作は、時代劇でありながら表層は現代劇である。しかし、例えば 鎖は武家社会における仇討ちの象徴であり、一方・主人の後家と従者という立場を超えた男女の愛情を描く。そこに時代に とらわれた事情と時代を超えた私事を絡めている。描き方は、ドロドロならぬサラサラで 何方かと言えばドライな関係のように思える。同じように不義の行為をした友之丞と五平の対照的な扱い、そこに封建制度への皮肉が観て取れる。それを強調するかのようなシンプルな会話劇は観応えがあった。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/18 15:47

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