触れただけ 公演情報 SPIRAL MOON「触れただけ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    劇作家協会新人戯曲賞 受賞作。
    一見 オムニバスのように思えるが、何となく繋がりを感じさせる短編連作集といった構成。現代、東京という喧騒の中にいるが、人の心は満たされない、といった会話劇。漠然とした社会不安、そして人間の寂寞の対照として大都会が浮かび上がる。

    物語は三場面で、それぞれ独立した話のようだが、台詞の中でそれとなく関係性を臭わせる。会話は、何となく いびつな男女の人間関係の鬩ぎ合いを描く。演出は、場景を都度転換し、状況と情況を表出し物語をしっかり支える。その丁寧さは、やはりSPIRAL MOONらしい。

    一場…挫折して弟のマンションに転がり込んだ兄とその恋人、弟の三角関係の含みある会話、二場…その恋人の妹と援助交際をしている中年男の とぼけ思わせ振りな会話、三場…中年男の元妻と学生時代の恋人による探り合うような会話。その三場の同時進行するような関連構成は巧い。表し難い心情表現を味ある言葉(台詞)と演技で観せる。その機微、滋味ある会話は観応え十分だ。
    そしてラストの風景は圧巻で、実に印象的である。
    (上演時間1時間30分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    物語に共通しているのは車騒、そこに大都会 東京の雑踏を連想させる。多くの人や車が行き交うが、けっして一人ひとりの心は満たされているわけではない。そこに人の寂しさ温もりを求める姿が浮かび上がる、そんな少し切ない短編3本。
    場転換は、薄明りの中で少し時間がかかるが、それによって今の情景(シーン)の反芻が出来、次シーンへの期待が膨らむ時間となる。

    第一場…少し高い平台に開き窓、手前にテーブルと椅子が置かれている。平台の下手にソファがあり少し離れた場所のよう。窓の開閉によって車騒が聞こえたり遮断される丁寧な演出である。
    或るマンション10階の一室。不動産会社に勤める弟・直人(市川歩サン)、兄の恋人 奈美(菅野奈都美サン)、無職の兄・利男(佐藤希洋サン)が愚痴ともつかないとりとめのない会話が続く。利男と奈美の別れ話、直人の会社による周辺の宅地開発という当たり障りのない話。
    直人は奈美に、ノルマ達成のため契約書を偽造したと告白する。奈美も子どもの頃の万引きを告白する。両親の愛情を独占していると感じていた彼女は、妹と同じ立場になるため万引きをした。泣く家族を見て、それからは他人の痛みは分かるが、自分の痛みが分からなくなったと言う。秘密事をばらしあった2人は、窓の外を眺める。外界から急ブレーキと衝突音。

    第二場…第一場の少し高い平台を小料理屋の座敷に見立て、正面に襖のような衝立。
    個室にスーツ姿の中年男・大西(樋口浩二サン)と女子高生風の高橋(奈美の妹〈嶺岸加奈サン〉)が座っている。2人はどうやら援助交際しているらしい。大西は離婚したので正式に付き合いたいと言い出す。 大西は人生絶頂期にも関わらず 妻が買い忘れた卵を買いに出たまま戻らなかった。そして妻に送った離婚届はいつの間にか受理されたと。
    高橋は、恋人と別れて大西と正式に付き合ってもいいが、友達と互角な関係を保つためにも、自分のJK(実は噓)価値を認めるなら今後も金を払うべきだと、結婚を仄めかせて話す。 立ち去ろうとする高橋の前で、大西は思い立ったように前妻に電話をかける。大西が話し出した途端に電話は切れる。

    第三場…第一場同様に正面に窓があるが小さく、上手にも枠がある。真ん中に四角いテーブルがあるが、第一場と比べると全体的に こじんまりとしている。そこに木下(大西の元妻〈秋葉舞滝子サン〉)が住む古びたアパートの一室を表す。
    木下は同窓会を装い学生時代の恋人・祐介(牧野達哉サン)を呼び出す。木下の携帯電話が鳴るが すぐに切る。 祐介は突然の呼び出しに訝るが、木下は夫が買い物に出たまま戻らず、離婚したことを告げる。彼女は1人で生きる寂しさ、恋愛感情とは別に2人で暮らすことで紛らわそうと持ちかける。今住んでいるアパートは立ち退きの時期が迫っている。他愛もない会話の中で祐介に傲慢な優しさを見たかのように、今度は「よりを戻さなくていい」と言う。 不意な停電、畳を叩き階下にいる住人(婆さん)に苦情表現するシーンは、マンションとは違う人情味(近しさ)を感じる。
    かつて自分を置き去りにし、今また翻弄する木下に祐介はかすかな怒りを感じる。明かりが戻り、卵を買いに行くと言う祐介に、木下は帰って来るかと確認する。 その時、木下の携帯電話が再び鳴り出すが…。

    ラスト、暗転したのち一瞬にして夜の大都会の光景が…見事な演出である。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/17 00:47

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