花を灯す 公演情報 劇団水中ランナー「花を灯す」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    面白い、お薦め。
    死は魂が別の所へ行くだけで、その人を忘れなければ、そんな思いを強く感じさせる公演。劇団水中ランナーが紡ぐ物語は、切ないが同時に温かく優しい気持にさせる。タイトル「花を灯す」は、キクの開花調節を行うため、電照栽培をしている。その光景を近くの丘の上にある公園から眺めながら育った家族、母が、そして父が亡くなり、花農家の経営が行き詰る。思い出が多い家を処分することになり、両親の遺品を整理することになる子供たち。その思いを切々に描くとともに、その家族と親交のあった遺品整理士たちの思い、それぞれの観点から「想い」を描いた秀作。

    死、そして遺品整理という「想い」が「重く」なりそうな内容だが、時に笑いを挿入し、ある小道具が沈んだ気持を癒してくれる。脚本は勿論、演出や舞台技術も巧みで、見事な心情描写を観せる。
    ちなみに、遺品整理業を営んでいる代表の名前は木村拓哉、有名人と同姓同名であることを揶揄われるが、そこには悲しさ切なさが…。
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし) 

    ネタバレBOX

    舞台は宮野家、空間を二分し、上手は玄関や土間を設え、棚には花農家らしい作業具が乱雑に置かれている。下手は居間で 障子戸や茶箪笥、TVや座卓が置かれている。本当にそこで暮らしているかのような造りである。上手 客席側に別場所として遺品整理士たちの事務所<机・パソコン、ソファ>を設える。
    座卓の上には「フラワーロック」が置かれている。音・声に反応して動く玩具。寂しさを紛らわすために話しかけ、クルクルと回る様子に癒される。そして葬儀時の木魚の音に反応して腰をくねらし踊るーその台詞は胸にグッとくる言葉、そんな心情をサラッと言わせる上手さ。

    物語は花農家の先代が亡くなり、その葬儀に娘・由紀恵が帰ってきたところから始まる。由紀恵は離婚し、ここで働いていた宮野英太と再婚する。由紀恵・英太共に再婚で、それぞれ一人息子の連れ子がいる。そして二人の間にも2人の子供が授かり、家族6人で暮らしていたが…。13年前に母が亡くなり、今度は父が亡くなった。花農家の経営は行き詰まり、家を手放すことにした。4人兄弟・妹はそれぞれの事情を抱えており、遺品の整理と自分たちの心(気持)の整理が必要になっている。思い出の詰まった家は勿論、遺品の整理(処分)はしたくないが、やむを得ない事情を切々と説明していく。

    家族一人ひとりの事情、遺品整理士が抱えている思いを丁寧に描き、それ故に身動きが出来ない もどかしさが痛いほど伝わる。劇団水中ランナー公演の特徴は、人物の過去・現在を巧く説明することで、今置かれている状況をリアルにしているところ。本公演も例外ではなく、長男の眼病、次男の引籠り息子、独身長女の将来、家業を継いだ末っ子(三男)の責任感と苦悩、そして長男夫婦、次男夫婦という、それぞれの家族の問題を絡めた多面的な事情が物語の広がりと深みを感じさせる。この花農家で代々働いている山下玄・清の二役(作・演出:堀之内良太さん)が重くなりがちな雰囲気の中で、コメディリリーフとして笑いを誘い、硬柔のバランスを見せる。

    遺品整理士の木村拓哉は、学生時代に火事で家族を亡くしている。一瞬の出来事で遺品どころではない。整理する遺品がなく、大切にしているのは父が付けてくれた「拓哉」という名前だけ。そこに、家族の想いに寄り添った遺品整理士としての矜持を見るようだ。夜でも明かりを灯す…美しい光景の中に、ちょっぴり切ない思いを描いた公演は、ぜひ劇場で。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/11/12 13:06

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