満足度★★★★
メビウスの環かクラインの壷か…
内容説明を読み始めて主演のしじみの紹介かと思いきや終りまで読んだら芝居内容だったことから予期した通り「実録系」で、当日パンフによればそれもかなり事実に近いとのこと。
確かに冒頭の家族揃っての夕食シーンでの昭和どころか明治大正のような(笑)頑固オヤジからもうリアリティあり。なんだかその場の気まずい空気まで伝わってくるようで。
その意味では中盤以降、家族の一員がAV女優になったことを知った家族のオドロキや戸惑いなども「あぁ、そうなんだろうなぁ」であり説得力十分。
なんたって本人の経験談を基にしているばかりではなく、本人役を当人が演じているんだからそれもそのハズ?
セミ・ドキュメンタリー(というよりは「セミ・フィクション」の方が的確か?)として事実の重みがたっぷりのっている、みたいな。
さらに終盤でのしじみによるAV引退の弁はまんま事実であろうし、彼女の進もうとする方向を否定するAV監督の言葉が現実では覆されているという、舞台上の過去と演じられている現在の関係が面白く…どころかそのつながり具合がメビウスの環の表と裏かクラインの壷の外側と内側の如くシームレスにつながっているように感じてゾクゾク。
それに加えて舞台から降りて夜の街(マチネでは当然昼の街なんだが)に去るしじみとそれを追うカメラに「持田茜なんていないんだよ」と台詞がカブるラストの切れ味鋭いことと言ったら! これでトドメを刺された…というよりはダメ押しな感じ。
事前に目に入った情報には「感動」「泣けた」などの文字があったので家族モノに弱い身として泣けるかと思っていたらそうではなかったけれど、言葉では語れないようなフシギな感覚を味わったってところ。