BOX1 「キリン」 公演情報 カラバコ「BOX1 「キリン」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    elePHANTMoon 風
    旗揚げ公演とのこと。だけれど旗揚げとは思えないしっかりした演技だったと思う。登場するそれぞれのキャラクターはまったく共感できない人たちだ。だけれどそれは、非日常でもなく、非現実的でもない、グレーの空気感が漂っていた。

    以下はネタばれBOXにて。。

    ネタバレBOX

    大学のサークル室での出来事。ここでの登場人物は7人。序盤、一見、普通そうな大学生たちだったが、ある事件をきっかけに普通じゃない、つまり全員が闇を抱えた大学生に変貌していく。この時点でelePHANTMoon を思い出す。あの時の芝居だって、一人として共感できるキャラクターは居なかった。ここでも同じ。

    宗像の恋人が宗像の目の前で不審な死に方をした経緯から、安田は伊刈に「もしかしたら宗像が殺したんじゃないか?」などと言ったばかりに、伊刈は宗像に告げ口をする。そんな安田を問い詰めるように宗像はドライバーで安田の横腹を刺してしまう。その刹那、どっと流血して気を失って安田は倒れてしまうが、そんな瀕死の安田を目の前にしても、同じサークルの仲間たちは動揺するどころか、表情一つ変えずに普通にしている。

    筧はそんな状況の中、携帯電話で家族と冷静に話しながらも緊迫感は全く感じられない。鼻歌でも歌いそうな感じだ。安田の妹の晶子は死体のように転がってる兄を見て、「こんなのがあるから汚い」と、まるで家畜のように扱う。要するに全員が他人事なのだ。

    交通事故で死んだとされている安部の恋人は宗像だったが、どうやらもう一人の彼の恋人はゲイの安田だったことが解り、宗像は安部の浮気相手だった安田を憎んでいたことも刺した理由の一つだった。一方、宗像を好きな伊刈は宗像の為に部費の50万を使いこんでしまう。だがそのうちの30万は宗像が安部に貢いでしまう。つまり、伊刈は宗像に貢ぎ、宗像は安部に貢ぐ。

    筧は幼いころ事故で神経をやられて痛覚障害になっていた。だから人の痛みも他者から受ける痛みも感じない。そして晶子は幼いころ両親を一度に亡くして記憶喪失になっていた。だけれど母親が編んでくれたマフラーが形見と言って大事にしている傍ら、母親の指を切り落として大事そうに持ち歩いていた。

    それぞれの抱えた闇を解明している、そんな緊迫した状況のなか、軽いノリの小林がノー天気に「安部をひいちゃったのは俺だよ。良くあることだから。」と告る。この告りかたも、なんだか春の日に桜でも見に行ったような緩い言い方なのだ。

    そんな中、部外者の橋村だけが、探偵のようにまとめ役となってこういった状況に陥ったさまをナビ役で明快になぞ解きをしていくのだが、橋村のキャラがひじょうにいい。このキャラはファンタジーなら魔法使いや預言者が良く似合う。しかし、この橋村さえも、人が一人死んだってのにやけに冷静で何事もなかったように退室してしまうのだ。

    どのキャラクターも排他的で責任回避型なのだ。重要な場面でもあまりそんな意識がないのか、深刻さが抜け落ちてる。ひと一人死んだからって、騒ぐことはない。良くあることだから・・・。なんて聞こえてきそうだ。

    終盤の終わり方が、幕を突然降ろされたような幕引きだったけれど、この舞台を観たとき、恐い、と感じた。日常のどこかにこんな感じってあるんじゃないかってマジに思ったからだ。リアルじゃないけど、リアルに思えるこの情景はきっと泣き叫んで憎しみから人を殺す状況より、石につまずいたようにあれ?っと殺してしまう普通さが怖いのだ。


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    2010/01/12 23:29

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