狼少年タチバナ 公演情報 劇団牧羊犬「狼少年タチバナ」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    2015年初演の舞台映像は、門真国際映画祭2020舞台映像部門で優秀作品賞はじめ4つの優秀賞を受賞…この舞台の映像はどのように映っているのだろうか。「再演を望む声も多かった『狼少年タチバナ』を、キャストを一新して7年ぶりに上演」、その謳い文句から、自信作ということは分かったが、なるほど 力作であった。

    当日パンフに主宰で作・演出の渋谷悠氏が「嘘と事実をごちゃ混ぜにされるのが一番タチが悪い。自覚がないなら猶更のこと。そこに悪意はない。しかし被害はある。この物語はそんな人物と接した僕の実体験から生まれた」とある。それだけにリアルであり、舞台としての力強さ芸術性を高めた原動力があるようだ。
    少しネタバレするが、嘘の力と信じ抜く力は 何度も嘘をつく男とそれを最後まで信じようとする男の友情のよう。ラスト、2人の男の悲哀でもあり滑稽でもある人生模様がしみじみと描かれていることに気づかされる。これはウソではない。
    (上演時間2時間10分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、半円形の舞台を場面に応じて回転させる。冒頭は主人公・嘘の力-橘史郎(徳岡温朗サン)の家の中、半円台の右手壁に大きな抽象画、左側に窓・カーテンがあり、円台外の上手に木製のテーブルと椅子、下手に座卓が置かれている。一方 信じ抜く乾六郎(長部努サン)が服役していた刑務所、妹とその同棲相手の家、更に煉瓦作りのワインバーの店内というように場景を変え、その場景内で一つの物語を作り、全体を構成する。別の場所だが、同じ時間が流れているような観せ方は、人物の置かれた状況や心境の違いを比べるような効果がある。そこに自覚なき嘘つきの楽天さ、嘘と知りつつ庇う悲愴さ、人生で味わう喜怒哀楽を2人の男にそれぞれ喜楽と怒哀に分けた理不尽を負わせる。

    史郎は嘘つきだが、そんな自覚はない。自己肯定や自己愛性パーソナリティ障害としている。それだけに始末が悪い。一方、六郎は養護施設育ちで、本当の生年月日や名前を知らない。幼馴染の史郎が何気なく、誕生日や名前を付けてくれたことに恩義を感じている。後々分かるが、史郎はそんなことをすっかり忘れている。
    やがて史郎の嘘が詐欺になり、その身代わりとして刑に服することになった。4年の月日が流れ、史郎は六郎の出所祝いにパーティを開催するが…。

    史郎の妻 のり子(井上薫サン)は、史郎の嘘に耐えられなくなり耳が聞こえなくなる。人の言葉が恐怖なのだろう。彼女はペット(ハムスター)を飼うが長生きしない。徳川幕府の歴代将軍の名を付けるが、既に八代目(吉宗)になっている。実はペット虐待をすることで心の均衡を保っている狂気が怖い。平穏であるはずの家庭が、夫の嘘の身近な被害者が妻という皮肉。嘘がつけず愛想笑いをする姿が痛ましい。薄暗い照明の中で、飼っているハムスターに話しかけ毛を毟る。そこに夫の性質に追い込まれた女、複雑な人間の感情と本質を鋭く抉り出している。

    登場する人物は、六郎と史郎に限らず 真偽といった性格というか性質に括れるような描き方だ。史郎とビジネス提携をする宇田川兄弟、兄の雄二は信じて疑わない、一方 弟の伸二は疑り深い、ワインバーの夫婦、夫の茂夫は裏表がなく、妻の深夜子は過去に犯罪歴がありそう。人の両面を何気なく人物像に担わせ、サブリミナル効果のように「嘘の力と信じ抜く力」を物語に落とし込んでいるようだ。ラストが秀逸…イソップ寓話「嘘をつく子供」のように、パーティ参加者が次々に帰ってしまい 最後は誰からも相手にされなくなる。まさしくオオカミ少年だ。

    舞台美術は勿論、音響や照明といった舞台技術も効果的な役割を果たす。しかし 何といっても役者陣の熱演がこの舞台を支えている。初演からキャストを一新したとあるが、この公演でのキャストは夫々のキャラクターを表し、実際 居そうな人物像を立ち上げている。言葉としての台詞だけではなく、言葉に出来ない〈思い〉のようなものが表現として伝わる。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/10/30 05:46

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