「Post Tenebras Lux. (ポスト・テネブラース・ルークス)」 公演情報 Antikame?「「Post Tenebras Lux. (ポスト・テネブラース・ルークス)」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、お薦め。【あいまいなしっそう】
    奇妙な設定から垣間見える日常の不安や曖昧さ、その不確かさによって情緒の揺らぎを描いた秀作。見ず知らずの人と ひょんなことから話し出すが、そのきっかけが奇抜である。変哲のない日常の景色が少し違って見える、いや変えたい思いがある。しかし それは錯覚のような事実のような。

    ラスト、不安と勇気は背中合わせ。躊躇する思いを奮い立たせ一歩前に進む、その瞳に映る光景はどんなものか。そんなことを問い掛け、想像させる余韻が…。
    女優3人による確かな演技が、”表し難い情況”をしっかり形として観せ 感じさせる。
    (上演時間1時間50分 途中休憩なし)

    ネタバレBOX

    舞台美術は、古い歩道橋の手摺、真ん中にドアが倒れている。舞台下、客席との間に椅子2つと大きなクッションが上手に置かれている。上が外の風景、舞台下が室内を表す。どちらも普段の暮らしで見かける。ただ違うのは、落ちていたドアがあるということ。

    毎朝、見かけていたが名前さえ知らない女性2人、向中野蕗子(花島希美サン)と小笠原可奈(永濱佑子サン)が、歩道橋の真ん中に倒れているドアに興味を示す。2人が協力してドアを立ち上げ、蕗子が支え 可奈がドアを開けてみる。同じ空間であるにも関わらず、違った風景が見えたような気がした。このドアが数日間放置されており、2人は気になってしょうがない。可奈の友人・江尻亜美(わたなべ あきこサン)はその話に興味を示しつつも、自分の目下の関心ごと、それは可奈の元カレ<あんどう君>と付き合いたいこと。2人の会話が登場しない あんどう君の人物像を立ち上げ、存在感を増していく。それがドアに繋がっていくという、少し強引な展開だが、序盤のドアを開けたままの光景に結び付ける。

    一方 蕗子は理想のような夫と暮らしているが、苛立ちを覚えてしまう。何でも笑って許してくれる夫、その完璧さが鼻につく。隙のない夫と本音で向き合えない悲しさ寂しさ。可奈は出会った時に蕗子が呟いた「しっそう」(状況的には<失踪>)したい という言葉に驚く。そんな蕗子に淡い恋心が芽生えた可奈自身の戸惑い。ドアを開けなかった蕗子は、家庭(夫)という目に見えない鎖に繋(縛ら)れた景色を見ていた。舞台の上に立たせたドアの上手下手は同じ空間だが、開ければ違う景色が見え、閉めれば二つの違う空間に分かれる。

    <あんどう君>を通して、可奈と亜美の夫々の思いを遂げる。可奈は、曖昧な態度を改め明確に別れを伝え、亜美は成就させようと必死の工作をする。蕗子は夫と別れる決心をして…。ドア(の開閉)を通して、普段の暮らしにちょっぴり変化をつけて違う光景をみる。曖昧な関係の先にある透明になるまで…こちらは「疾走」する言葉に変換するようだ。
    公演の面白いところは、物語の端々に詩的な言葉(台詞)があり情緒を感じるところ。さらに亜美がピアニカの演奏、落語、そして表現しにくい "ぼよよ~ん"という脱力系の仕草で曖昧さ 揺らぎを表現する。敢えて観せるシーンを挿入し、演劇的な面白可笑しさを強調させたかのようだ。勿論、照明の諧調によって時間や状況の変化を印象付ける。

    あまり利用されなくなった歩道橋(近くに横断歩道がある)とはいえ、数日間放置されているのは現実的ではない、などとは言わない。出来れば、その数日間の時間的な経過を表すため、せめて上着だけでも衣装替えをしては と思った。
    次回公演も楽しみにしております。

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    2022/10/19 12:37

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