凍える【10月24日、10月30日公演中止】 公演情報 パルコ・プロデュース「凍える【10月24日、10月30日公演中止】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★

    捕まるまでの20年間に7人の女児を誘拐、性暴行、殺害して小屋に埋めていた男・ラルフに、
    彼に研究対象として関心を抱く精神科医・アニータ、ラルフに娘を殺された主婦・ナンシーの
    3人だけで繰り広げられるヒューマンドラマ。

    最後のあたりは解釈が大きく分かれるところだと思う。

    ネタバレBOX

    最初の登場時からどうも様子がおかしいラルフ。

    話が進行するうちに、彼も父親や母のボーイフレンドたちから性的虐待や暴力を常習的に受けていた
    だけでなく、母親から浴槽に叩きこまれた際に頭をけがしていたこと、またこうした経験から前頭葉
    その他に障害を持ってしまい、マトモな善悪の判断がつかなくなっているのではという報告がなされる。

    アニータの「悪意による犯罪を罪とするなら、疾病による犯罪は症状である」という、作中最も大きい
    インパクトを与えるセリフはこうした文脈から出てくる。この考えに基づくなら、ラルフは罪に問われず
    おそらくは精神病棟で自分のなしたことの重大さを知ることなく一生を送ることになるけど、もちろん
    ナンシーとしてはたまったものではないわけで。

    アニータの諌止を振り切って、ナンシーがラルフと面会を果たす箇所が2幕後半の、そして作品全体の
    ハイライトにあたることは全員一致するかと。

    罪の意識というものから全く無縁なラルフに、ナンシーはありし日の娘ほか家族の写真を見せる一方、
    ラルフが過去に受けた虐待や暴力の記憶を呼び起こし、「娘も怖かったに違いない」「苦しかったに
    違いない」と追及する。

    自身が過去に受けた体験と、そんな自身が女児へ起こした残虐非道な振る舞いが全く一緒だという
    (当然な)事実をいまさらながら自覚し、良心の呵責で千々に乱れるラルフ。ナンシーの「あなたを
    赦します」という言葉もさほど効果を発揮せず、とうとうナンシーに宛てた懺悔の手紙を引き裂き、
    「悩んだからじゃない」という不可解な言葉を残して首吊り自殺を図る……。

    この場面って2通りの解釈ができると思う。

    1. ナンシーが遺された年長の娘のアドバイスを聞き入れ、本心からラルフを赦そうとした

    この場合はラルフを赦そうとしたけど、ラルフが自分の弱さに耐え切れず「楽な逃げ」の
    ために死を選んだということになり、ナンシーは間接的にラルフを殺したという罪を抱える
    ことになる。

    ラルフの葬儀の場面で、ナンシーがアニータに言い放った、「生きて苦しみなさい」というのは
    この場合自身にも跳ね返ってくる言葉ということになる。

    2. ナンシーがラルフの性格を把握した上で、赦すふりをして自殺に追い込んだ

    ナンシーはアニータの研究発表を読んでいたそうなので、シリアルキラーのキャラクター性に
    ついて把握しているはず。ナンシーの言葉も振る舞いもラルフを自殺させ、復讐を成し遂げる
    ためのものでしかなく、当然この場合は良心の呵責はほぼないだろう。

    これどっちなんだろう。自分は最初前者かと思ってたけど、ネット上では結構後者の見方も
    多くっていろいろ気付かされる感じだった。

    あと、ラルフは結局自分の自覚した罪の重さに耐えきれず、苦しさからおさらばするために
    死ぬことになったんだけど、「悩んだからじゃない」を最期の負け惜しみと捉えるか、
    本心からの言葉と捉えるかでも解釈が変わってくるんだよな。

    セリフを追っているだけで、物語を必要最小限理解するための手がかりは与えられるんだけど
    よくよく追っていくと、3人それぞれ肝心な部分も含めて観客サイドには明かされていない
    情報があるので、見る側に委ねられている範囲が大きい作品だなって感じました。

    0

    2022/10/11 20:24

    0

    0

このページのQRコードです。

拡大