アルキメデスの大戦 公演情報 東宝「アルキメデスの大戦」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    すぐれた戦争モノ・ファンタジーだ。
    漫画から出発して、東宝の特撮映画、今回は商業劇場で劇化された。第二次大戦中の戦艦大和建造を素材にしたエンタティメント。演劇界期待の劇団チョコレートケーキの・作・演出のコンビが、都心の東宝の商業劇場へ初登場。巨大戦艦建造の国家の論理と、数学の合理性の対立と言う異色のテーマは成功するか、その首尾や如何。
    幕前の静かな波の音のなかで、幕が開くと、敗戦まじかの海軍通信部。パラパラと置かれた安っぽい事務机で通信兵たちが無線にかかり切っている。大和沈没の報が飛び込んでくる。崩れ落ちる兵たち.このプロローグから始まるのだが、驚いたことに、この場面で使われたスカスカの机と椅子を組み合わせるだけで、海軍本部も、会社社長室も、長門や大和の船橋も、全場面を処理してしまう。緋毛氈一枚を斜めに置くだけで宮中を処理してしまった「治天の君」の、あっぱれチョコレート魂である。
    結果はすべて想像以上によく纏まっていて、ジャニーズファン以外の若い客層が緊張して見ている。平日の夜、九分の入り。2時間55分(休憩25分)
    チョコレートケーキにとっては手慣れた政治的対立の構図の作品だが、戦時の政治判断の失敗は、現在の政府のことに当たっての右往左往にも重なっている。それが嫌らしく表面に出ることのない表現にしているのもさすが。思い切って裸に近い汎用セットにしたのも成功している。その中でよく劇場の大きさを読み込んでスケール感を出す工夫もしている。それが、花より団子の実力派俳優陣と合っていて、敗戦のストーリーにふさわしい。一方、人気の福本莉子の設定はいかにも通俗で生かし切れていない。
    ドラマの対立軸を戦争と数学の正義、と言う新しい視点にもっていったのも、ユニークで成功している。戦争は知らない観客が圧倒的に多くなった現在のエンタティメントにふさわしい。数学の板書などはちゃちいのだが、結局は普通の誰にもわかる話に落としていくのもうまい。
    俳優はすっかり若くなって、軍人らしくはないが、現実に彼らが生きていた時代が遠くなってしまったのだから、これでも今の観客には馴染めるのかもしれない。造船中将(岡田広暉・好演)脇に回った役どころの少尉(宮崎秋人)の使い方も商業演劇定番ながらうまい。
    クリエの興行としては大成功だろう。さすが、東宝。大手のプロの見切りの良さを十分に見せてくれた商業演劇である。

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    2022/10/10 23:52

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