嘘ぎらい 公演情報 『OYUUGIKAI』製作委員会「嘘ぎらい」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★

    面白い、珠玉作。
    嘘が嫌いな主人公・理を 一役3人が違う世代で紡ぐ心象劇。オムニバスを長編に書き直しているため、多少違和感はあるが、それでも一人の男の心の彷徨を上手く繋いでいる。物語に頻繁に出てくる宮沢賢治の小説「銀河鉄道の夜」の一節を朗読し、物語の雰囲気というか世界観を抒情豊かにしている。主人公の心の旅は小説そのものであり、生と死を見つめるもの。

    チラシにも書かれている「私はここであなたを見てる。俺は君を忘れてる。という嘘のお話」が、始まりであり結末でもある。その観せ方が、冒頭と終わりを回帰させる展開、つまり旅の始まりであり終わり。夢(心)の中で悩み苦しんだ末、(現実の)生を謳歌する決意が出来た といった後味の良さにしている。
    (上演時間1時間10分)【星チーム】

    ネタバレBOX

    舞台セットは、大きさが異なる 通り抜けできるアーチ型支柱のような後景。ほぼ中央にテーブルと椅子、上手と下手に同じような小衝立が縦 横に向きを変えて置かれている。テーブルの上にあるランタン風の照明器が橙色の光を放つ。全体的にスタイリッシュといった印象だ。

    物語は、理の部屋に元恋人・守宮鈴(池澤汐音サン)と理の妹・末廣明音(高宗歩未サン)が心配して訪ねてくるところから始まる。
     暗転後、理が十代か二十代の頃、鈴に告白し付き合いだすことになる。デートの初々しさが微笑ましく、人の優しさが全面に出ている。観ているこちらの方が恥ずかしくなる。しかし、何時しか鈴からの連絡が滞り、突然(引っ越しで)会えなくなる。

     理が三十代の頃、3年間同棲した有賀紘子(堀有里サン)と別れる。将来の約束を果たせるか否か、責任を負いたくないと言う彼の言葉。紘子がしたいとおりにすれば、という一見優しい態度だが、真に彼女と向き合おうとしない。傷つくのが怖く本心を表せない。
     紘子と別れた後の数年後、外で星空を眺めている理に見知らぬ女が話しかけてくる。今日プロポーズされて嬉しい、が ビールを飲んで少し酔っている。見ず知らずの人だからと言い、自分の妹の身の上を話し出す。その話を聞き愕然とする理は…。彼女の名は守宮渚(木下彩サン)、鈴の姉であった。自分だけが幸せになっていいのか、そんな葛藤を抱えているかのような語り方である。同時に見知らぬ人と言う台詞があったが、実は素性を知った上で話したのではないか。理にも幸せになってほしい…そんな思いで接触したのではなかろうか。嘘ぎらいに、優しい嘘をついたと思いたい。

    会話の途中で 理は何度も「うるさい!」と怒鳴る。傷つきたくなく、干渉もされたくない。また 鈴はいなくなる直前、「大丈夫」と理に言う。しかし、その言葉は嘘で強がりであった。嘘なんか言わなければよかった。後悔は人生につきもので、それを乗り越える勇気が必要だと。
    「銀河鉄道の夜」ではジョヴァンニが友人 カムパネルラと旅をするが、その辿り着いたところは別々の場所。ジョヴァンニは現実の世界に戻り、カムパネルラは消え去ってしまう。この2人に準えた 理と鈴の物語は美しくも悲しい。
    印象的なのが、何かと面倒を見てくれる妹・明音も含め、理が対話する時はピアノがずっと奏でられる。その優しい音色に癒される。
    次回公演も楽しみにしております。

    0

    2022/10/10 08:51

    1

    0

このページのQRコードです。

拡大