実演鑑賞
満足度★★★★
ピンク地底人3号の作品を一度観た気でいたがどうやら初であった。架空の世界(日本の近未来的な)とそこに暮らす人間を描いた作品で、骨太な印象である。舞台は場末の喫茶店を思わせるカウンターとテーブルのある店(若干広く物が少ないのが寂びれた地方や途上国のどこかを思わせる)。冒頭、風雨の中、店に入って来た若い男をカウンターの中の男が迎えて見合っているが、これが奇異な出会いである事を窺わせる。若い男は「カミ」の地域からやって来た。店の男は若い男の服装でそれを察知し、厳しい目で凝視しながら、庇護する意思を示す。監視塔はカミからこちら側を監視している。手続を踏めばカミからこちらに来る事はできるが、その逆はできない。カミの人間は裕福に暮らし、こちら側は貧困にあえいでいるが、両の経済力の差ではなく、こちら側が囲い込まれているためだ。こうした状況が序盤の短い台詞のやり取りで浮かび上がる。連想は一気に、イスラエルが建設した分離癖で囲まれたパレスチナに飛ぶ(パンフを読むと明確にその事に触れている)。圧倒的に非対称な状況を強いられている、にも関わらず「複雑な歴史的経緯」の一語で「どっちもどっち」と扱われるパレスチナの状況を、日本に仮設したドラマから何が見えて来るか・・。戯曲はそれを試みており、恒常的な「戦時状況」での日常がまことしやかに描かれる。絶望的な状況での分断された人間同士の共生の可能性、といったテーマは当然潜んでいるが、「問題提示→解決」が容易に訪れないパレスチナ人が獲得している(だろう)「日常」は口当たりの良い答えには辿り着かせない。だがシンプルな人間の感情はそこにある。芝居は結末を迎えるが、問いは浮遊する。