最高傑作 -Magnum Opus- 公演情報 劇団銀石「最高傑作 -Magnum Opus-」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    観客を置き去りにしない手腕は見事
    「最高傑作」という題名を誤解してしまいましたが、
    それも狙いのうちだったのでしょうか(笑)。
    パンフレットに親切に「鑑賞のポイント」を書いて
    ある。5話のオムニバスだが、ひとつの物語であること。
    (柱に分断された空間を逆にうまく生かした芝居で、)
    どの位置からも意図的に死角を作り、観客の想像力
    にゆだねていること。
    一種のSF、神話だが、傍観することなく、壁を作らずに
    窓から積極的に覗き込んでほしいということ。
    これを読まなかったとしても、自然にそのポイントを理解して
    観るようになっている点が巧みだ。
    確かに深く理解しようとすると難解だけど、佐野木雄太は
    観客を置き去りにしないところが評価できる。
    毎回、PPTを開き、積極的に自作を語る。
    この姿勢は貴重だ。

    ネタバレBOX

    ベージュトーンの薄いプリント布を張り巡らし、ガラスブロックや電球、
    試験管を使った舞台美術。開幕前から男女の俳優が2人1組になって毛糸玉を巻きとりながら、小声で会話をしている。前列なので囁き声でも聞こえたが、コイバナをしている人や天候の話をしている人など。台詞ではないが、私語でもない。WSのような面白い場面だ。
    俳優はコサージュやフリルに彩られた衣裳をまとっている。
    「銀石」の魅力を支える要素として浅利ねこの衣裳は欠かせない。
    男女の別なく、マガジンハウスの雑誌「Olive」に出てくるようなファンタスティックでちょっとアンティークっぽい、80年代の人気デザイナー金子功(ピンクハウス)のような最近の「森ガール」のような服のコーディネートである。加えて今回の芝居のキーワードともいえる「ガラス」にちなんだのか、スワロフスキーの飾りが多用されている。衣裳に関してはちょっとしたファッションショーのようでもある。ロボットの話が出てくるが、これで衣裳が近未来的なメタリックなものだったり、シンプルなモノトーンの無機質な洋服だったら、視覚的には退屈してしまうかもしれない。
    ここに出てくるロボットの話は機械部品開発というよりはクローン研究に近い。佐野木氏は「人類の進化」について考えたという。はるか昔の人類(原人?)は現在の人類とは違っていたし、ならば未来の人類はもっと進化しているかもしれないと。
    「観客を巻き込む」という作者の意図に巻き込まれた私は、芝居に登場する博士のような技師を観ていて、観劇2日前に観た60年代の映画「不信のとき」の人工授精の話を思い浮かべた。
    有吉佐和子原作のこの映画の本筋は単なるよろめきドラマではない。
    「子供さえ産めば完璧なのに」という誤解した夫のつぶやきが妻に「人工授精計画」を決意させる。
    「人間扱いされてない」という妻の怒りが描かれるが、それから何十年も経ても、閣僚が「女は産む機械」なんて発言をする国もあり、代理出産など「生殖」にまつわる問題の根は深い。
    まるでこの芝居のロボットのようではないか。
    この芝居のロボット技師は、より人間に進化していくロボットに戸惑いを覚える。ロボットというより人間に近いのだ。そして、研究室に忍び込んんだのをみつけられたロボットの男女が互いをかばいあい、自分を処分しても相手を逃してほしいと涙ながらに語る場面は、まるで「近松の世界」だ。ここは結構感動的で、この場面は「現代の近松劇」として成立する。
    ロボットが「情」を備えているのだ。一方で、ロボットは人間が理解できない言語を操るようになり、人間を攻撃していくのだった。
    吟遊詩人であり死の商人でもある男はトランクに人類が滅亡し、廃墟となった町のガラス玉をたくさん詰めて世界を歩いている。このガラス玉を見て、観客は初めのほうに配られた飴玉を思い出すようになっている(私もにっこり笑った浅利ねこちゃんからいただきました)。
    ロボットの夢の話をする現代のサラリーマンとその恋人が商人からもらった「未来を見通せる」というガラスの飴玉を口にする。
    このカップルは「ロボット近松」の男女と同じ、斉藤マッチュとすずき麻衣子が演じる。カップルが携帯電話で互いに仕事優先の事実を隠そうと会話する場面。最近携帯電話が芝居に登場する場面が増えたが、会話がうそ臭くつまらない劇が多い中、この2人の会話は俳優の間がうまく、真に迫っていてよかった。
    実際、戦地となった町の道端に落ちているガラスを収集して歩く人の話を新聞で読んだことがあったので、この劇にとても真実味を感じた。
    佐野木氏の芝居は実験劇のようで、観ていて飽きない。

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    2009/12/15 19:57

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