実演鑑賞
満足度★★★★
鑑賞日2022/10/08 (土) 14:00
座席1階
「限界集落」に陥る可能性がある架空の中山間地集落を題材にした物語。「消滅可能都市」の発表にヒントを得て構想したという。再演だが自分は初めて拝見した。
最初に登場するのは集落の役員会。この集落の存続か消滅かを挙手で決めるという場面から始まる。役員には田舎暮らしにあこがれて移住した主婦も含まれるが、会長を除く全員が消滅に賛成してギョッとさせられる。
行政からの交付金の使い道を議論する場面がある。存続への手段は、取りも直さず移住促進策。空き家を修繕して「田舎体験」をしたりすることだ。一方、消滅を選択した場合には「村仕舞い」という方向で進める。消滅にせよ存続にせよ今の住民を大切にすることから始めるべきでは、との声も出て、例えば個人の家屋の修繕、ゲートボール場の整備などの意見が出る。だが、同席した役場の職員が「これは個人の利益になるようなことには使えない」と指摘する。役員たちの反論が面白い。「空き家対策だって、移住してくる個人の利益になるようなものではないのか」。政府の経済対策で現金給付を堂々と行っていることを考えれば、ある意味、すがすがしい議論ではある。
役員の中にもひそかに都市部への引っ越しを考えている人もいて、役員同士の人間関係がシュールで面白い。先祖代々の田畑を持つ女性は「この土地を守ることが自分の役割」と力説。引っ越しには「古里を捨てるのか」という趣旨の言葉が浴びせられる。人口減少社会が変わらない以上、集落は消滅せざるを得ない時が来る。移住政策などはその場しのぎの延命に過ぎないことも描かれる。事実なのではあるが、なぜかため息が出た。
舞台では異例だと思うが、かつては多くの若者が高齢者を支えた社会保障が、今や支える人が減って窮地にあるという、新聞やテレビでよく見るグラフが客席に示される。元新聞記者の古城十忍らしい演出である。
開幕前のセットが、壊れかけた船になっているのは、集落の行く末を航海に例えているからだ。ラストシーンはまさに、わが国の近未来を象徴する幕切れになっている。