「カレル・チャペック〜水の足音〜」 公演情報 劇団印象-indian elephant-「「カレル・チャペック〜水の足音〜」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    歴史と個人、家族の絆と諍い、シリアスと笑い等非常に多面的でいい芝居だった。カレル(二條正士)の想い人である無邪気で奔放な少女オルガ(今泉舞、登場時の設定は10代)の、嵐のようなにぎやかさにまず惹きつけられる。

    第一次対戦後からナチスドイツのズデーテン割譲までの戦間期。チェコスロバキア領内の少数民族ドイツ人に対する圧迫を、元ドイツ語教師のギルベアタ(勝田智子)が突然現れて訴える。大国ドイツに圧迫されるチェコが、その領内ではドイツ人を差別迫害する複雑さ。彼女は停電の闇の中などに不意に現れる、カレルの想像上の議論相手だ。意識内の幻影的人物を、主人公の対話相手として登場させるのは、この「国家と芸術家」シリーズの常套手段だが、シリーズ化の前の「エーリッヒ・ケストナー」では、実在のリヒテンシュタールがその役を担っていた。

    仲の良かった兄ヨゼフ(根本大介)は、弟の名声に嫉妬して意固地に自分の世界に篭り、ヨゼフの妻ヤルミラ(岡崎さつき、スラッとした長身)と夫婦仲もおかしくなる。後半は兄夫婦の娘アレナ(山村茉莉乃)が、トリックスタートして舞台を活気づける。

    チェコ大統領マサリク(井上一馬、好演)が、息子のヤン(柳内佑介)ともどもチャペック兄弟の家に現れる。芝居の都合かと思ったら、実際に大統領と親交があったらしい。さすがこくみんてき作家だ。

    「恋人を取るか、祖国を取るか」。最初は「極論は暴力だ」ですむが、ナチスドイツの威嚇によって、本当に直面する問題になる。銃を取るか屈服するか。とどまるか亡命するか。サルトル的状況である。民主主義を巡り、政治と芸術家をめぐり、夫婦と兄弟の関係を巡り、ズバッと切り込む粒だったセリフが数々あり、さまざまな問題を考えさせる芝居である。公演台本を売っていた

    ネタバレBOX

    一緒に見た劇友は、今のウクライナがダブって、非常に今日の情勢と噛み合った芝居だと言っていた。

    ラストは死の床のカレルがうなされる、ガスマスクをつけたクロ尽くめの山椒魚=兵士たちのうめきと死体。途中、コーラスが出てきた流れではあるが、歴史に即した会話劇で押してきたので、抽象的幻想的な締めくくりになんとなく物足りなかった。調べてみると、カレルの死の四ヶ月後に、ナチス賛同勢力がカレルの家を襲い、兄ヨゼフは強制収容所で亡くなったそうだ。そういうエピローグをつけても良かったのではないか。

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    2022/10/08 10:38

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