午后は、すっかり雪 公演情報 青☆組「午后は、すっかり雪」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★

    さりげなく強く、染み込んでくる感覚
    舞台上の時間が
    ひとつずつ
    魔法のように実存感を与えられて。
    さらにその時代を受け取る別の時代と重なっていきます。

    いとおしさを感じても
    閉じ込められることがない、
    過ぎた時間への感覚に浸潤されて。

    遅れて降りてくるかすかな高揚の匂いにも
    心惹かれました。

    ネタバレBOX

    冒頭の空気が、観る側をすっと捉えます。
    舞台隅に見える雪を模した美術と
    毛布に包まる人が季節を伝えて・・・。
    そして、二人の時間、ちょっと古風に見える大人の世界。
    それは時間の断片。

    物語が重なっていきます。
    昭和30年代に生きる人々、
    そして昭和が平成に変わる頃にその時代を俯瞰する。
    昭和30年代の日々のスライスが、
    昭和60年代の色に時間をやさしく磨かれて。
    舞台上の空気につつまれて、
    折り目正しく丁寧に観る側の今に手渡されていきます。

    昭和30年代って
    まだ一般に家族の愛情や男女の愛情に
    ある種の箍がしっかりとはまっていた時代だと思うのです。
    父親が帰宅するときの一家の雰囲気など
    今からみると滑稽ですらあるけれど、
    それは当時のホワイトカラーの
    ありふれた家族の縛めであったはず。
    次第に家族の規律がほどけていきながらも、
    中産階級の家ではまだ父親と母親、あるいは夫と妻が
    それぞれのロールをステレオタイプに担っていた時代。
    今とは隔絶したような感覚もあるのですが、
    そこに事象だけではなく空気が演じられているから、
    観ている側に奇異な感じや違和感がない。
    姉妹たちのそれぞれの結婚観や愛情の色に加えて、
    日々の暮らしの肌合いまでが
    キャラクターの体温とともに伝わってくるのです。

    父親がその場をはずしたときの
    母親と姉妹たちのほどけたようなかしましさ。
    お見合いに失敗した末娘に
    父親が用意したバター飴からつたわってくる愛情の愚直さ。
    さりげない道具立てがその場を瑞々しく際立たせて・・。
    そこに役者たちの解像度の高い演技が重なり合って
    向田家の日々が香り立つ。

    向田邦子自身から滲む、
    その家の枠をさらりと踏み越えたような
    愛情にも息を呑みます。
    琥珀のような色に染められたしなやかでに濃密な時間。
    冒頭の足をなぜる仕草にはじまって、
    相手を強く想う気持ちと
    相手を愛おしむが故の距離感が、
    男と女の普遍的なつながりの重さから
    さらに溢れるようにそこにあって。
    食べ物や日々の暮らし、
    スープや昔ながらの駄菓子に編み込まれた心の交わりが美しく光る。
    日々の買い物の値段が下世話に流れる毎日を映し、
    その繰り返しが男が病に蝕まれいく時間軸にかわっていくなかで、
    一つの毛布の内側のぬくもりが
    皮膚だけではなく包み込むように心を温めていく。
    刹那の慰安。
    そこに宿る感覚の実存感が、
    時代の感覚をそっと隠して
    観る側を深くやわらかく浸潤していくのです。

    そんな時代や邦子のことをを受け止める昭和60年代の向田家も
    実にしなやかに描かれていました。
    家の匂いを残したなかに、
    流れ着いた時代のあるがままの空気があって。
    昭和の終りという見知った時代での質感から、
    さらに過ぎ去った時代が垣間見え、
    その時代の座標が観る側にも浮かんでくる。

    とまどいながらも
    邦子の愛猫の死をきっかけに
    30年代を一つの時代として受け入れる妹の変化に、
    昭和という時代の滅失への諦観と柔らかな受容を感じて。
    気が付けば、
    観る側も同じように時代を俯瞰する場所に置かれている。

    ただ過ぎ去った時代への愛惜だけに閉じこもるのではなく
    いたずらに、過ぎた時間を捨て去るのでもなく
    そこから昔を袋に詰めてさらに歩き出すような感覚。
    過去の人々や時代の記憶を今として
    力まずに自然体に歩き始める三女の姿に
    柔らかい高揚を感じながら
    終幕を迎えたことでした。

    で、ですね・・・
    アロマのように染み込んできた
    作り手の想いが
    終わってしばらくしても、驚くほど消えないのですよ。

    さりげなく強く観る側を取り込んでいく
    吉田作劇のしたたかさにも、改めて舌を巻いたことでした。

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    2009/12/09 11:59

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