天の敵 公演情報 イキウメ「天の敵」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    2017年の初演から、自分には少々早い再演観劇であったが、超常・異常の世界に浸る娯楽作品に「現在」的視点を鋭く据える作者であるので、パンデミック前後での変化を見たく(配役の違いにも期待)観劇に赴いた。
    初演の記憶はわりと鮮明。劇場が芸劇イーストから本多に移っても風景、そして物語にも大きな変化はない。が「見え方」が違う。どこまでもクリアな立体舞台を観た。

    ネタバレBOX

    まずはTVの料理番組(収録)場面から始まるが、まな板でごぼうを細切りし、フライパンに放り込み、バルサミコ酢を入れる。エアかと思いきや、やがてシャーと音が聞こえ、きんぴらの匂いが客席にも届く。招かれた料理人はこの物語の表の主人公H(名は複数ある)だが、手を動かすのは助手の女性、番組進行をするお喋りMCの質問にはHが答え、コミカルなやり取りの中にHの独自の哲学がちりばめられる。その言葉は簡潔だがMCの、引いては観客が共有する一般認識を覆していく。飽食への警鐘から肉食への疑念、更に「荒唐無稽」な領域へと話は進展するが、領域の境界がいつしか踏み越えられ、不可思議の物語に誘われる。
    主人公の役をやる浜田信也が年齢的にも役に適し、荒唐無稽な「仮説」に演劇的リアリティを与える。だが彼と対峙する記者(安井順平)こそ観客が投影する人物で、重い問いを投げかける存在となる。二人の関係という基本構図に彩りを添える周囲の人物らのディテイルが美味しく、人間味ある人間らを鮮やかに象るが、時間を超越した視線を通す事により、人間の類型的な描写を可能にする(「あゆみ」の眼差しに似た、愛すべき人間の形象)。
    余白が効いている。冒頭のTV番組での料理の時間、台詞が止まるが料理が進む。限界の長さ沈黙を試みているが、それによってリアルさが刻印される。際物な物語が、どういう身体から語られるのかは重要であった、と見終えてから思う。
    台詞の無い若い二人が不思議な存在感を持つ。「現在」の料理教室でアシスタントをしていたりするが、料理番組収録に入る前、真の冒頭でテーブルメイキング等に無言で勤しむ所作が、鮮明な印象を残すのだが、それだけである。ただ、掘り起こされる「話」、世間には出せない事実を、二人は知っているのかいないのか、演出的には特に示唆をしないが、観客はどちらなのか、と「?」を無意識に抱え込む。この存在を置いた事は他の諸々と考え合わせ、演出力を実感させるもの。

    総じて、猟奇さが強調された初演に比べれば、奥行きある人間描写により完成度の高い人間ドラマとして見る事のできた再演版であった。

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    2022/10/02 02:58

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