海獣 公演情報 劇団桟敷童子「海獣」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    海獣の咆哮を聞け! 人はそれでも生きていかなくてはならないのだ
    強いメッセージが込められた熱い舞台。
    その熱さに乗せられ、観ているこちらもラストまで一緒に突っ走った。
    120分は決して長く感じない。

    ネタバレBOX

    鈴木興産の倉庫(スタジオ)に入ったときから、「やっぱり桟敷童子だ感」が充満している。
    倉庫だからできる大胆で大掛かりに組み上がったセットがそこにある。
    期待感は高まるばかり。

    やはり唄がいい。登場人物全員が叫ぶような歌声が染みる。
    ここにも強いメッセージが込められている。

    物語は、いつものような伝奇モノとは少し様相が異なっていた。
    時は、幕末、ペリーの黒船が来航し、日米修好通商条約が締結され、横浜が開港されることになる。
    横浜の小さな漁港にも、その波が強く押し寄せてくる。
    漁師は海に出ることを禁じられ、異人のために作られる建設現場の力仕事で日銭を稼ぐ。攘夷を唱える侍が横行し、人を襲う。
    そんな中、異人相手の女郎「らしゃめん」に、これからなる幼い女たちが女衒と女将に連れられて舞台となる小さな漁港にやって来た。
    横浜に異人相手の遊郭ができるまでの間、面倒を見てほしいということなのだ。
    彼女たち、らしゃめんは、異人を一定の場所に閉じこめるため、つまり、「お国のため」に働くと言う。それを頼まれた母娘は、親身になって見るからに痛々しい彼女たちの面倒を見る。
    しかし、女郎たちは、異人に抱かれて鬼になってしまうという迷信を信じ、毒を飲み死を選ぶ。
    それに気がついた村の人々は彼女たちを生き返らせようと一生懸命になる。
    その騒ぎの中、海獣の咆哮が聞こえてくる。

    舞台となる漁港と同じような漁港から売られてきたと言う女郎たちだが、実は地獄のようなところに生まれ育ち、そして地獄に売られていく。
    地獄しか知らないので地獄でも懐かしく帰りたい場所であると思う彼女たち、そして彼女たちを待ち受ける境遇はあまりにも悲惨すぎる。

    それでも生きていかなくてはならない。どんなことがあろうとも、絶対に死んではならない。そういう強いメッセージが舞台上から押し寄せる。

    過剰すぎるほどの気持ちの表出がある。
    逞しく生きる漁村の人々と、おびえ震える幼い女郎たちの対比。それを結ぶ、1人の女郎のカラ元気が悲しい。自分たちを大切にしてくれる家族にウソをついて、わざと波風を立ててしまうのは、自らの境遇がさせてしまうことなのだろうか。
    同じ女郎仲間のために、自分が先にらしゃめんになると言う彼女の姿は美しくもあり、逞しい。
    結局逞しい者だけ、生きることに欲望がある者だけが生き残っていく。
    彼女1人だけが、毒を飲んだときに「生きたい」とあがいた。生きたいという強い気持ちがあるから生きていける。

    そして、彼女たちを見守るのは、海神様ではなく、海獣様。
    老いも若いも、富める者も貧しい者も平等に連れて行ってしまう海獣様。信仰の対象ではなく、恐れの対象だ。
    しかし、救いでもある。海の向こうに救いがあるというのは、海の向こうからやって来た異人相手の女郎になる女たちにとっては皮肉でもある。
    海獣様の咆哮を聞いて恐怖できる者は、生きる欲望がある。

    また、この舞台では「お国のため」という言葉の欺瞞も強く指摘する。お国のためと言われてらしゃめんとなる彼女たちには、お国は何もしてくれなかったし、これからも何もしてくれないだろう。そんなことよりも、「食べて」「生きろ」ということなのだ。

    役者がいい。うまいとかどうとかと言うことではなく、まっすぐに正面を見ているような姿勢と目の力がどの役者もいいのだ。そういう姿が心を打つ。だから桟敷童子は好きなのだ。

    桟敷童子では、いつもスペクタクルのような舞台展開をついつい求めてしまうのだが、今回もラストはとてもよかった。凄いスペクタクルというわけではないのだが、思わず涙してしまったことは確かだ。少々センチメンタリズムすぎかもしれないが、とてもいい。
    異人の妾になってまた村を訪れた女郎に、世話をしていた女房が「もう会うことはないだろう」とキッパリと言う様はセンチメンタリズムを突き抜けていた。

    ちょっとだけ気になったのだが、「ふるあめりかに袖はぬらさじ」の一文をお札売りがさらり言うが、そのタイミングはそこでよかったのだろうか。
    また、攘夷浪士が、女郎に切腹を迫るのだが、この一文を知らないと、斬り殺すのではなく、「なぜ切腹をさせる?」と違和感を感じたかもしれない。
    それを舞台で説明してくれ、ということではないのだが・・・難しいところだ。

    そして鈴木興産を後にするときには、すでに次回の公演も楽しみになっていた。

    4

    2009/12/07 07:45

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  • みささん

    いやー、恐縮です(笑)。

    Hell-see さんの文章は、「あ、いいな」と私も思いました。
    みささんをはじめとして、また読むのが楽しみな方が増えたのが喜ばしいです。

    冷静に考えるとあうるすぽっとに行くよりは長い距離です。
    HPによると池袋−あうるすぽっと8分、錦糸町−鈴木興産15分でした(ば、倍?)。
    最初にあうるすぽっとに行ったときの印象が「遠いな」と思ったもので、たぶん途中、人が多くてなかなか前に進めなかったのでそう感じたんだと思います。

    2009/12/09 04:50

    あきら、ワタクシ、貴方の書く文章は好きですよ。とても。温度のある繊細な文章を書く人なんだなぁ、と以前から思っていました。そして、Hell-see さんの文章も、これまたシャープな言語と普通の感覚から逸脱した感性が好きです。そしてRUSさんの文章は毒舌の混じった、だけれど沢山の芝居を熟知している知識を混ぜながらも誰にも媚びない文章が好きですね。彼のレビューを覗くと、時々スカッとします。笑
    ワタクシの中で3人はそれぞれ勝手に三角形に似た形の角に佇んで、どちらにも付属しないで近寄らないで、粛々と静かに違った方向を向きながら舞台を観ているような風景を想像してしまうのです。それほど三人の文章は混ざることのない色彩と感覚でワタクシにとって、ひじょうに魅力なのですよ。
    Hell-see さんをここで見つけた時は(実際にはお会いしたことはないですが)、感動すらしました。

    あうるすぽっとに行く感覚だったら、そんなに遠くないですね。では、感動しに行きましょうか。
    問題は日程だなっ。笑



    2009/12/09 01:47

    みささん

    コメントありがとうございます。

    そして過分なお褒め言葉もありがとうございます。
    というより、桟敷童子が凄いんですけどね(笑)。
    好きだからちょっと過剰に書いているかもしれませんので、そのあたりは差し引いて・・・笑。

    で、ご推察のとおり、結構切ない話だと思います。躍動感もありました。

    >今回、駅から劇場まで遠いこともあって、躊躇していたけれど

    そうなんですよ、わが家から遠方にあり、さらに倉庫ということもあり、寒いか?というもあったのですが、倉庫ならではの舞台が観られるのではないかということもあって、行くことを決意しました。ま、たとえどこでやったとしても行ったと思いますが。

    錦糸町の駅からはやはり15分ぐらいみておいたほうがよいと思います。遠いですよ。でも池袋からあうるすほっとに行くぐらいの感覚でした。
    道は単純なんですが、一応、グーグルのストリートビューで近辺だけをチェックしておきました(そんなこと普段はめったにしません・笑)。
    途中にあるマルエツを目印に行ったので、大丈夫でした。
    劇場となる場所は、普通に工場のような倉庫のような場所なので、「ここでいいのか?」と一瞬思いましが。

    ちなみにやっぱりど真ん中で、役者さんの視線がぶつかるぐらいの高さの席が一番よかったのでは、と思っています。前から3列めぐらいでしょうか。
    タクシーなんて乗る必要はありません。皆さん歩いてましたよ。
    とは言え、実際にどれかぐらいかかるかわかりませんでしたので、かなり早足で行きました。そして、汗かきました(笑)。

    2009/12/08 16:44

    す、素晴らしいレビューです!いつものことながら、起用する言葉の対比が巧みです。
    流石だなぁ・・。今回、駅から劇場まで遠いこともあって、躊躇していたけれど、やっぱ観たいなぁ。
    あきらさんが説明してくれたお陰でストーリーはしっかり頭に入ったから、あとは劇場での臨場感と音楽と演出を充分に楽しめばいい。
    今回の物語もセピア色の舞台が想像されてどこまでも美しくて悲しくて切ないですね。
    桟敷童子の独特の世界が今、ここに広がって、赤い靴~履~いてた~おんなのこ~のフレーズが勝手に飛び出てきました。
    海の向こうへの救いとの対比も淡く美しい。

    駅から、会場までどのくらい歩きました?バスの案内がでていないけれど、タクシーは乗りたくない。高いから。どんだけ貧乏?(失笑!)


    2009/12/08 14:09

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