実演鑑賞
満足度★★★★
はじめてみる関西の小劇場出身の作者の作品だ。日本の創作劇を上演することに積極的で実績もある青年座が、経験豊富な演出家・宮田慶子を立てての上演である。
ストーリーも劇の構造もユニークな新人の登場である。イキウメに似て時代設定も場所設定も架空、と言うより不詳と言う感じである。内戦下の架空の街の喫茶店を営む一家が舞台である。店は内戦のため、南北の境界に壁を立てた国の、その南の壁際で細々と営業を続けている。壁の上からは常に監視兵の眼があり、戦火の音も、スパイの疑いなどの捜査員が出入りするなどの緊迫感もある。
しかしながら、その壁にはそれほど難しくなく行き来できる抜け道もあり、農家を営む市民が戸外で働くこともできる。店には映画に深い愛情を持つ若者や記録映像を作る人たちも出入りしていて、そこがこの場所を現代の暗喩として性格づけている。
この場所で一家が遭遇するのは、一家離散であったり、官憲の強制捜査であったり、壁を越えてくる者への人間的な支援であったりするが、その描写はストーリーを紡ぐというより生活の断片を並べていくという感じで、そこもこの作者を特徴づけている。作品のリアリティは、境界線を挟んで関西弁と、標準語で話される言葉が違うとか、映画への情熱への共感とか、喫茶店で提供される食物とか生活上の細部で保障されており、南北の政治体制の主張や、戦争の原因、現在の戦況などは一切触れられていない。市民にとって戦争とはこういうものだという戦争に慣れ切った世界である。かつて衝撃的であった「寿歌」の世界がいまは架空の街角の喫茶店に転がっている。
ディストピアのドラマとして、中身は、イキウメや寿歌が透けて見えて、それほどのことはないが、関西弁の力とか、市民生活の細かいリアリテイがとりいれられており、フラッシュバックで短いいシーンを重ねる手法も最近では珍しい。
演出家としては青年座のリーダー格の宮田慶子はこういう作品はあまり手の内ではない(と言うより最も苦手ではないかと思う)だろうが、生活感のとか、家族関係の膨らませ方はさすがの出来で2時間飽きない。しかし、若い俳優たちはもっと頑張ってもらわなくては。関西弁のセリフも浮いているし、ベテランに交じると狭い劇場で人数も少なくないから無駄な動きも目立つ。*の一つは新参作家へのオマケ。