実演鑑賞
満足度★★★★★
鑑賞日2022/09/26 (月) 14:00
座席1階
青年座が注目した劇作家ピンク地底人3号は、地元関西だけでなく東京でも知られている人だ。受賞歴も多数。しかし自分が見たのは今作が初めて。巧みに設定されたプロットと時間軸。見るものを引きつける物語性など、どれも新鮮な驚きがあった。
イスラエルとパレスチナを切り離すコンクリートの壁。イスラエル側にしてみるとテロリストの侵入防止なのだろうが、壁で他の民族を遮断したからといって平和が約束されるわけでない。ピンク地底人3号は劇作を中断して日本を離れ、アメリカや中東を旅をしてこの戯曲のヒントを得たという。また、納棺師も経験し、人間の死を見つめ直してきたという。これらの経験が早速生かされている。
東西ドイツの壁は崩されたが、南北朝鮮を隔てる金網は半島を貫いているし、今作でも描かれている侵入者を攻撃するための歩哨が任務に就いている。アメリカだって例外ではない。トランプ前大統領は移民の流入を防ぐためにメキシコ国境に壁を築くという愚策を実行したし、そもそもアメリカ国内の高級住宅地はgated city、すなわち壁で囲むことによって「セコム」している。自分たちと相いれない、邪魔者を排除して見えないものとする発想は、世界各地に生きている。
物語は都市の南北を分断する壁の南側にある酒場で展開する。この店は北側の入植計画によって立ち退きを迫られている、つまり、北側が南側を蹂躙する構図なのだが、物語は、壁を乗り越えた?あるいは壁の穴をかいくぐって北の青年がこの店に雨宿りするところから始まる。
店の主には亡くなった弟がいるのだが、この青年も弟も映画が好きで脚本家志望というところで、主は弟の影をそこに見る。物語は現在と過去を行き来し、兄弟を取り巻く家族などの人々の人生を照らしながら、分断都市の現実と悲劇を浮かび上がらせていく。
北側の兵士が銃を持って乱入するシーンが場面転換に使われる。この時は耳をつんざくロック音楽と光で「殺人シーン」をカバーアップしていく斬新な演出だ。そしてラストシーンの「イルカ」の演出もすてきだ。劇作の面白さだけでなく演出効果も加わり、この舞台を盛り上げていく。
見逃すと損しそうな、秀作だ。