最後の料理人 公演情報 味わい堂々「最後の料理人」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★

    作家の白日夢願望?
    タイトルバックに使われる荒船泰廣による不気味なアニメーションに比べれば、後の展開は意外にふつうに感じた。楽器のガチャガチャした生演奏で出演者たちが踊る場面は唐十郎風だし、ノスタルジックな録音音楽で女性たちがポージングする場面は清水邦夫風で、どこか70年代初頭のアングラ芝居の懐かしさも感じさせた。
    フラッシュバックのように同じ印象の場面が続くので、少々退屈でもあるが
    とても不思議な世界に思わず引き込まれる。
    「喫茶店に伝説の料理人がいて、こんなことが起こったら面白いね」という作家の白日夢願望を具現化したような作品に思えた。

    ネタバレBOX

    旱魃による飢饉に見舞われたらしい村の3人の農婦の会話から物語は
    始まる。食べるものが何もないのに、「こういうときは抱かれたくなる」などと
    言い出し、村に残る男はいたっけという話題で、老衰で亡くなった村人の
    名やジョニー・デップの名前が出てくるなどメチャクチャだ。
    場面が変わって、めいめいコンプレックスを抱え、どこか壊れている女たちが集う喫茶店。
    アングラ芝居の雰囲気と言ったが、言い換えると小劇場演劇の
    貧乏くささも漂う。また、女子校の学園祭劇の雰囲気もあり、洗練された
    感じではない。ホラーと御伽噺は切っても切れない縁があると思うが、
    「注文の多い料理店」みたいなのを想像したら、あそこまでブラックな話では
    なかった。
    「女たちの呪い」をときどき呪文のように口にしながら折鶴を折っているメガネ(宮沢紗恵子)、小説を書きながら、女たちを観察している小利口そうな女たまこ(浅野千鶴)、この2人にそっくりな物言いと容貌の知人がいるので、思わず笑ってしまった。願望に合わせて嘘をつき、妊婦を装い、ばれても悪びれず、笑い飛ばす女(川口恵理)。個人的には、出会い系サイトで不倫してるクールなコーヒー夫人(梅澤和美)が魅力的だった。
    ミュージカルのアニーみたいなヘアスタイルで「おかか」を演じるタカハシカナコのオバチャンぶりは強烈。彼女がいないと、この芝居は成立しなかったと思われる。ああいうオバチャンっていますね。笑い上戸の陰に実は隠された素顔があるのかと思ったが、おかかは最後まで屈託なく笑っていた。
    手癖の悪いバイト(宮本奈津美)が店の金をごまかしたり、万引きをしても、ニコニコして許すというより、受け入れてしまう。少し頭が弱いみたいな物言いのバイトのマイを演じているのが作・演出家の岸野聡子。
    メガネの宮沢紗恵子が頭にタオルを巻いていきなり立川談志のモノマネを始めるなど、突拍子もないリアクションもあった。
    すべてはたまこの妄想なのか。日照りで餓死した女が生まれ変わって、今度はたまこの言うように至福の味わいの中で死んだとしたら・・・なんて考えたり。嫌いな芝居ではないが、何かもうひとつ味がしまらないような感じが残った。
    余談だが伝説のある飲食店には、やはり白日夢を期待するものだ。60年代に東京・蒲田に「80番(オッタンタ)」といううまい外国料理を食べさせる店があり、ここの皿洗いは有名なミュージシャンになれるという伝説を店主がこしらえたらしい。事実、この店から、有名GSグループのメンバーも輩出した。
    中学生のとき、授業中にこの「オッタンタ」を舞台にした白日夢のショートストーリーを落書きしたものだ。写真と地図から場所にあたりをつけて、見に行ったことがあるが、大人になって蒲田に勤務したときには、町の様子が変わり、もう場所さえも覚えていなかった。オッタンタについては「店はなくなっても、伝説は残った」と何かの本に書いてあった。この芝居を観て、久々にオッタンタのことを思い出した。

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    2009/11/30 19:31

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