乾かせないもの【御来場有難うございました】 公演情報 机上風景「乾かせないもの【御来場有難うございました】」の観てきた!クチコミとコメント

  • 満足度★★★★★

    心に染みました
    「銃後を守る」という言葉があったように、戦争は残された女たちも蹂躙する。
    女たちの静かな日常に絞って描いてあるから、一種、寓話のようでもある。
    「いつまでも乾かない、乾かせない想い」。
    洗濯の風景につづられる女たちの哀しみが心に染みました。
    こういうテーマだと、作家は長く描きたがるものだけど、抑制して
    1時間20分にまとめ上げたことにも好感が持てました。

    ネタバレBOX

    ユニーク・ポイントや平田オリザ作品にも共通する静かな中にもじんわりと
    訴えかけてくる作品だった。
    戦地から届く夫たちからの手紙だけを楽しみに暮らす6人の女たち。
    軍に勤務し、毅然とした大人のキリヤ(長島美穂)、冗舌でムードメーカーのユチカ(浜恵美)、少女のように無邪気なユエ(石黒陽子)、新婚のカズナ(村上由紀)、妻や夫たちの手紙を音読して聴かせるアーブル(宍戸香那恵)、几帳面なモスタル(根津弥生)、そこへ弟を兵役にとられた若い娘テト(木村恵実香)が新入りで加わる。
    前半他愛のない会話が続くだけに、後半空気が一変する。
    その対比が見事だ。
    「男たちが帰還したらどうしたい?」という話題で、カズナが「夫に洗い立てのシャツを着せて、抱きつきたい」と言い、テトは「弟をどこにも行かせないで、一生ずっと傍で暮らす」と言う。女たちの切ない心情がよく現れている。
    カズナの夫(梅田大資)だけが帰還し、その報告で夫が死んだと聞かされたユエは自害してしまう。
    「誤報もあるかもしれないから、もう一度詳しく話を聞きたい」とカズナに迫るキリヤに、「夫の心の傷に触れないでほしい」と拒むカズナ。戦争後遺症の
    深刻さを思わせる場面だ。ユエの死を契機にアーブルは女たちを扇動し、復讐のため兵を志願し、戦場に赴くと言い出す。必死に止めようとキリヤが銃を構えたそのとき、戦死が伝えられたはずのユエの夫(古川大輔)が帰還し、「ユエの居場所」を尋ねる。
    ロープに吊るされた洗濯物が女たちの歳月や心の襞を表し、間奏曲のようでもあった。戦闘機らしい爆音、蝉の声も効果的に使われていた。
    彼女たちはこれからどう生きていくのだろうか、と思いながら、「もはや戦後ではない」と言われ始めた昭和30年代のころのある風景が浮かんできた。
    それはいまの吉祥寺シアターの近くにあった戦争未亡人が多く暮らす女子アパート。ベランダと言うほど広くはない出窓にはいつも白い洗濯物が干されていた。彼女たちは戦前は専業主婦だったせいか洋裁や和裁の賃仕事で生計をたてている人が多く、ひっそりと地味な身なりで暮らしていた。
    このアパートの前を通るたび、何か物悲しい気持ちになったことを憶えている。というよりは、忘れられない光景だ。あのころは、まだ身近に戦争が残っていたように思う。戦争が終わっても、夫や兄弟を失った女たちは生き抜いていかねばならない。

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    2009/11/28 11:51

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