「かつて生命があったという惑星に向かって僕らは、」 公演情報 乙戯社「「かつて生命があったという惑星に向かって僕らは、」」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

     板上は、宇宙船の内部を模し深海に設置された訓練艇内部。天井から星とその放射を表したような形状の明かりが天井から左右に1つずつ下がりその間の空間には惑星を模したと思われる球体が適度な空間を開けて20近く吊り下げられている他、パラボラアンテナを逆さにしたような形状を示す骨組みの物体が椀を斜めに伏せたように在る。床にはコクピットや居住空間で用いる椅子やスツール等を並べ、それらの位置関係で使用目的を暗示し、機能を示唆するちょっとオシャレな発想の舞台美術だ。(追記9.27)

    ネタバレBOX


     物語内容は火星が地球に最も近づくタイミングを狙って発射される宇宙船に乗るメンバー選考最終審査の為に閉鎖空間での行動、精神状態等がメンバーたるに相応しいか否かの審査過程を描くことにあるので、オープニングでは出演者全員が昏い板上を直径20㎝程の光る玉を掌に載せて周回したり軌道を巡るような動きをして幻想的ないイメージを盛り上げる。極めてファンタジックで美しい場面で幕を開ける。因みに選考されたメンバーは火星到着後、生涯火星で暮らすことになる。このプロジェクトはマーズワンプロジェクト2023と名付けられ、2018年に参加メンバーを募った時点で応募者20万という人気プロジェクトである。現在残っているのは、6名。プラス1.(このプラス1については若干説明が必要である。選考に残っているオオカドの親友、ホシノなのだが彼はオオカドと共に大好きな星を見に海辺へ出掛けた際波に攫われ共に溺れた。オオカドは助かったもののホシノは脳死状態で劇中に参加しているのは、ホシノの幽体のようなものである。)
     物語の大筋は、この2人の関係が「銀河鉄道の夜」に準えられ乍ら展開しつつ、同時に閉鎖空間で長時間暮らすことになった6人が閉塞感から徐々に精神の安定を欠いたり疑心暗鬼に陥ったりして己の本性をぶつけ合う様を描いており、精神分析的側面も描かれてゆくので可成り面白い。
     具体的に各々が個々の本性を曝け出す切っ掛けとなったのは、霊能力が高いのかジュリが、「人影を見た」と言い始めたことだった。或はホシノを幻視した可能性もあろうが、常識的には可成り深度の深い海に設置された訓練艇にメンバー以外の人間が入り込めるハズは無く隠れる場所も無いのだが、一時的停電が起きたり何等かの異変の兆候かも知れぬと思える事象も起こるので2人づつ3グループに分かれて艇内を調べることになった。ジュリとオオカドはコクピットをタワラとタマコ、ハナエとミワは各々サイドエリアを。一時停電になった折には懐中電灯を用いる心細さもあり、疑心暗鬼は恐怖も生んで各々は己が裸形をも曝け出すこととなった。各々が発症した症状は様々であるがセックス依存症で女だからバイアグラでも使わなければ男を襲えないと考えているジュリはそれを持参しなかったことを悔やむものの「この所ずっと眠れない」とオオカドに告白する所から始める、然し埒が明かない…痺れを切らしEDなのか! 詰め寄るもオオカドは別の悩み(ホシノを脳死状態にした事故の一件で自分だけ無事に生き延びている苦悩)でその気になれない。(このホシノとの件は、更に後でホシノとのシーンにもろに「銀河鉄道の夜」が被さる形で詳述される。ハナエは、このプロジェクトに関わる研究者でもある(この6人選考の過程でも関与したことを認めており、多くのメンバーから最終選考でもスパイの役割を担い皆の行動・心理状態等のチェックを被試験者のフリをして監視しているのではないかと疑われている)が、本気で宇宙に関わることになった切っ掛けは星の大好きだった幼い息子を亡くし、亡くなった我が子の為に宇宙の何処かに壮大なモニュメントを建設する為であった。一方、今回相方として艇内調査に当たっているハナエは寝たきりになって永かった夫の生命維装置を外し殺したことに纏わる諸々の事情が応募の理由であった。タマコには現実に生きている世界に夢を持てないが、異なる惑星・火星に渡って未来を創造したい、という儚い望みに賭けたい。謂わば夢を夢見るような儚い念があった。だが、彼女の書いていたブログのファンが居た。それがタワラであり、彼には彼女の念は、行けば火星で死ぬより他無い無某な計画に思え何とか火星へ向かうことを諦めさせようとここ迄追ってきたのであった。
     以上の事情にジョバンニとカムパネルラの友情と別れが重なるシーンが被さってくるので極めて詩的で哀歓に満ちた物語になっているのである。

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    2022/09/23 00:01

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