笑顔の砦 公演情報 庭劇団ペニノ「笑顔の砦」の観てきた!クチコミとコメント

  • 実演鑑賞

    満足度★★★★★

    鑑賞日2022/09/18 (日) 13:00

    舞台美術の凄さは、そこに暮らす人の時間を感じさせることだ。もう何十年もこういう暮らしをしてきた人、いつもの暮らしが繰り返されてる感、あるいはまだ馴染まなくて定着していない感じ、仮置きのまま迷いながら暮らしてる感・・・。そういうことを雄弁に語るのがセットなのだと強く感じた。船長、みんな寂しいに決まってるよね。

    ネタバレBOX

    同じ間取りで反転タイプの二つの部屋が並んでいる。
    舞台向かって左は船長の部屋で、一緒に漁に出る若い漁師たちも
    同じアパートに住んでおり、毎日食事を共にしている。
    これがにぎやかで遠慮が無くて、清々しい程うるさい。

    真黒に汚れた換気扇、炊飯器から立ち上る湯気、
    ボロいアパートの立て付けの古さまで感じさせる作り込まれたセットが、
    彼らの日常の安定感や時の流れを伝えてくれる。

    一方隣は空き部屋だったが、ある日認知症の母親と、
    役所に勤めるその息子が引っ越して来る。
    海のそばで暮らしたいという母の願いを叶えたいと部屋を借りたのだが、
    21歳の娘に手伝いを頼んでも露骨に嫌な顔をされ、彼は次第に追いつめられていく。

    こちらの部屋は、ベッドとポータブルトイレが部屋のほとんどを占めていて、
    鬱々とした雰囲気が漂う。
    優しいけれど母の言動におろおろする息子は、たぶんまだ
    母親の老いを受け入れることが出来ていないから。

    隣り合う二つの部屋の住人は、それほど深いかかわりを持つわけではない。
    だが認知症の老女の様子を縁側から垣間見てしまった船長は、
    思うところあった様子だった。
    22年も共に仕事してきた若手の漁師が、余命半年の母親を
    父だけに任せておけないと北海道へ帰る決意をし、
    漁師の短期バイト学生はあと3~4日となる。
    クリント・イーストウッドのマカロニウエスタンも、
    ヘミングウェイの「老人と海」も、
    船長が言うように「ひとりは寂しいに決まってる」のだ。

    変化は”次の世代”に表れる。
    仏頂面で嫌々手伝っていた21歳の娘が「休学しようか」と言い出したり、
    漁師のバイト学生はパンチパーマ(?)で戻って来る。
    理由は「一緒に居る方が寂しくないから」ではないだろうか。

    ラスト漁師二人の笑いは寂しいかもしれないが温かかった。
    お隣さんはまた引っ越して行き、空き部屋になった。
    あの介護一家がどんな選択をしたのか判らないが、
    よりよい選択をしたのだと思いたい。

    バックステージツアーに参加して、セットを裏から見ることが出来大変面白かった。
    短時間で空き部屋になったりする工夫や、湯気のしくみ、効果音の努力など、
    美術そのものがひとつの作品としての魅力にあふれていた。

    帰り際「あー、雨やんでますよ、良かった~!」と外へ出られた
    タニノクロウさんの笑顔が優しくてつい話しかけてしまった。
    故郷富山の港町には、あのセットのような古いアパートがまだあったのだという。
    そのアパートにもきっと数えきれないほどの寂しさがあったに違いない。
    タニノクロウさんはそれを丁寧にすくい上げ、見せてくれた気がする。
    ありがとうございました。

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    2022/09/19 01:01

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